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恒大集団が破産したニュースを聞いて不安になった時に読む話(その1)



破産したのはケイマン法人

先週8月19日に中国の不動産デベロッパー大手の恒大集団が米国で破産申請したとのニュースが流れました。このニュースを受けて株式市場が下落するなど大きな影響がありました。
しかしよく考えてみると、中国の不動産大手が何でアメリカで破産申請するのか意味不明と感じた人も多いでしょう。

実は、そもそも今回破産したのは、カリブ海のケイマン諸島に登記されている法人です。この話を聞いて更に混乱したひともいるかもしれません。中国の不動産会社だと思っていたのが、何故「ケイマン法人が米国で破産申請??」と二重に意味不明でしょう。
以下かいつまんで説明してみたいと思います。

外国人は中国企業の株を持てない

そもそもの話として、中国では今でも外国人は一部例外を除いて人民元建ての中国本土企業の株式を持つことは出来ません。これは中国がもともと共産党が支配する社会主義国家だからで、基本的には企業は全て国有が原則です。
もちろん中国には日本企業をはじめとして多数の外資が進出しています。この場合は、中国企業との合併(JV)か、または外資100%で中国に会社を設立して企業活動を行っています。
今でも、例えば、フランス企業のルノーが日産自動車に直接出資したように、日本企業のトヨタが中国企業の東風汽車の株式を買収して中国で事業を行うことは出来ません。

改革開放で背に腹は代えられなくなる

その中国ですが、今から40年前に改革開放路線に舵を切り、30年前の1990年代に入ると株式市場が整備されました。しかしこの時点でも、国内企業の株式を外国人が直接保有することは禁じられていました(今でも原則禁止です)。これは中国本土の企業が外国資本に支配されることで実質的に植民地化されるのを恐れたためです。
一方で中国は、急速に経済発展するためには、膨大な外国資本を必要としていました。今では想像できませんが、当時の中国は今の北朝鮮並みに貧乏で、ドルや円などの外貨も殆ど持っていませんでした。
発展のためには、工作機械などの設備や技術を導入する必要があります。そのためにはドルや円が必要ですが、当時の中国はパンダと漢方薬ぐらいしか輸出するものがありませんでした。要は”超貧乏”だったのです。
外国人が中国企業に出資するのは止めたい、しかし海外の資本や資金を導入したいという矛盾した要求に応えるために”数々の制度の抜け穴”が考案されました。それが今回の恒大不動でも登場している香港や”ケイマン法人”などタックスヘブンを利用した方法です。

ケイマン経由の裏上場

具体的には、香港やケイマンなどに外国人投資家がペーパーカンパニーのホールディングカンパニーを設立します。
更にケイマン法人などの子会社として、中国本土に外資独資(外国人100%の子会社)を設立します。一般に中国本土に設立される外国資本100%の企業は、外資独資企業(WFOE:WhollyForeign-Owned Enterprise)と呼ばれたりします。
さらにそしてこのケイマン企業と実際に事業を行っている中国本土の企業との間で”包括的技術提携協定”とか”包括的アドバイザリー契約”などを結びます。
またこのケイマンなどの法人が、中国本土株を持っている経営者に融資を行い、この融資金で中国の経営者は、本土企業の株式を保有することになります。実際に事業を行っている中国法人は、数々の”契約を通じて”利益の大半をケイマンや香港法人に配当として送ります。
この方法でケイマンや香港にある法人が、中国本土の企業を間接的に支配し、利益の分配を受けられ、あたかも本土企業の株を持っているのと同じようになる仕組が導入されました。この仕組みを”VIE(変動持分事業体)”と呼んだりします。
恒大集団以外にも、アリババやテンセントなど香港市場や米国市場に上場している多くの企業が同じようなスキームを利用しています。香港市場では、このようなタックスヘブン経由での裏上場をレッドチップと呼んだりします。
要はアメリカ市場でアリババ株を買った投資家は、中国本土のアリババ株を買ったつもりになっているかも知れませんが、実際に保有しているのは、ケイマンや香港企業の株に過ぎません。

中国政府の胸先三寸

一見、外国人投資家、中国企業その他にとって良いことずくめのようなこの仕組みですが、大きな弱点があります。
それは、事業を行う中国本土企業を支配する契約が、”中国国内の契約”であるという点です。
ご存じの通り中国は共産党の独裁国家で、三権分立などの制度が存在しません。例え裁判所と言えども中国では共産党の指導に従う必要があります。
中国は一応WTOなどの国際機関に所属していますが、この国内の契約が他の先進国での契約の様に「保護される保証」はどこにもありません。要は中国共産党の胸先三寸で反故にされるリスクも無くはないのです。もちろん中国も外国資本の投資が欲しいでしょうから、いきなり契約を無効にすることはないと思いますが、法的基盤はかなり危ういと言わざるを得ません。
またケイマン法人である恒大集団の株主やドル建ての債券の保有者は、中国本土にある恒大集団の本体(恒大地産など)に対して、例えば直接担保権を行使することが出来ませんし、破産申請などを行って債権保護を行うこともできません。
今回の恒大集団によるアメリカでの破産申請は、ケイマン法人が米国内に持っている預金口座や不動産が、ドル建て債券を保有している外国人投資家などから差し押さえされるのを防ぐためのもののようです。

中国本土のバブル崩壊は海外とは直接関係なし

数年前から中国の不動産バブル崩壊に対する懸念が、世界の金融市場をざわつかせています。しかし、中国が今でも資本規制を敷いている関係から、リーマンショックの時の様に危機が直接海外に伝播する可能性は極めて低いと考えられます。
もちろん恒大集団が香港市場などで発行したドル建て債券はデフォルトするでしょう(昨年デフォルトしている)。また中国本土の不動産に直接投資しているシンガポールなどの海外企業が損失を被る可能性もあるでしょう。しかし、その場合でも損失は予測可能ですし、予想の範囲内でしょう。

資源価格には影響がでるかも

もちろん世界第二位の経済大国が、不動産バブルの崩壊でデフレに陥り”第二の日本”になった場合には影響が世界に及ぶでしょう。
特に鉄鋼や銅などの資源に関しては、中国が全世界の50%近くを消費していることから、不動産バブルの崩壊の影響は避けられないかもしれません。
しかしインフレに苦しんでいる世界にとっては、むしろ朗報になるかもしれません。

ちなみに中国の不動産バブルの真相は別のnoteで触れてみたいと思います。

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