2023年3月11日にアメリカ・カリフォルニアのSVB(シリコンバレーバンク)と言う取って付けたような名前の銀行が突然経営危機に陥った。事態はあれよあれよと言う間に悪化、翌週には大西洋を渡って世界的案大銀行で天下のスイス銀行の一角であるクレディスイスが実質的に破綻してしまった。その後も事態は終息せず、今度はヨーロッパの雄であるドイツ銀行までが株価急落に見舞わている。
そんな中、Twitterを中心とするSNS上でAT1債(Coco債)なる聞きなれない債券の価値がゼロになったと世界的な大騒ぎが発生している。
SNS上には、やたらと略語を使ってマウントを採る金融関係者と、意味もなく危機感を煽るインチキ投資家インフルエンサーのtweetが溢れているが、正直どのtweetを読んでも内容が今一つ理解できない人が多いのではないだろうか?
また会社の上司などにAT1債について質問されて困っているサラリーマン諸氏も多いかも知れない。
ということで、今回はクレディスイスの買収劇で話題の名付けてAT1債券(またの名をCoco債)についてザックリした解説を試みてみたい。
そもそもはBIS規制(自己資本規制)
このAT1という謎の用語が登場するのは、銀行の自己資本規制(BIS規制、バーゼル規制)においてだ。
ここまでは日経新聞を読んでいるリーマン諸氏なら目にしたことだあるだろう。
だが、この自己資本から先が、いまいち意味不明の人も多いはずだ。
銀行業の基本
そもそも銀行は、一般ピープルから大量の預金を集めて、企業や個人に貸出すのがビジネスだ。そして融資で受取る金利から預金に支払う金利を差し引いたものが銀行の利益になる。
と、ここまでは小学生でも知っていることだ。
一方で、銀行は一般人から預金を集める以外に、株式を発行してお金を集めてもいる。株式で集めたお金に関しては、銀行は株主に返還する必要がない(代わりに、お金が必要な株主は株式市場で株を売却できる)。この返済する必要がないお金のことを総称して「自己資本」と呼んだりする。
貸し倒れ
融資に際しては、銀行は担保を取ったり、審査をしたりして注意してはいるが、当然、融資している企業(や個人)の中には、借金が返せない人間がどうしても出てくる。所謂「貸し倒れ」だ。
発生した貸し倒れが、その年の利益を上回ると、下手をすると銀行は預金を全額返済出来なくなってしまう。その時にバッファーになるのが、株式(自己資本)で集めたお金だ。
銀行に巨額の損失が発生して利益額を上回ると、預金者を守るため(預金を全額返済するために)まず株主が犠牲になる。要は預金者を守るための「バリア―」「シールド」のような役割をするのが、株式などの自己資本だ。
このシールド、バリアーの役割を担う代わりに、株主は預金金利を上回る配当を受取ったり、株価の値上がりなどの恩恵に浴することが出来る(多くの株を持っていれば銀行の経営者にもなれる)。
以上のことから、仮に銀行が巨額の貸し倒れで倒産したとしても、理論的には、貸し倒れの額が返済不要のお金である「自己資本」を下回っていれば、一般人が預けている預金は安全と言うことになる。めでたしめでたしだ。
住宅ローンの頭金みたいなもの
以上の説明でもピンとこない人のために、もう一つ例え話をしてみようと思う。
自己資本とは、住宅ローンの頭金みたいなものだ。
住宅ローンを借りる時には、通常は何割か「頭金」を用意するだろう。例えば2割とか。もし5000万円のマイホームを買うのなら、2割の1000万円の頭金を貯金で用意して、後の4000万円を銀行からローンで借りるとかだ。
ところが、その直後に不幸にして会社でリストラにあってしまったとする。そうなると住宅ローンの返済がもう出来ない。愛しきマイホームを泣く泣く売るしかない。もし、この時に家の値段が最初の5000万円を下回って居たらどうなるだろう(というか普通は下回る)。もし4000万円でしか売れなかったら、差額の1000万円が損になってしまう。
この時効果を発揮するのが「頭金」(自己資本)だ。残念なことに頭金の1000万円は帰ってこないが、少なくとも家の売却代金の4000万円でローンは帳消しに出来る。
もし最初に「頭金」を収めずに、5000万円全額ローンで借りていたらどうなっていただろうか。家の売却代金だけではローンを返済できず、1000万円の借金が残ってしまう。家がもうないのにローンだけ払い続ける羽目になる。所謂「二重ローン問題」というやつだ。
銀行の場合も同じだ。「頭金=自己資本(株式など)」、「住宅ローン=預金」、「マイホーム=担保」と置き換えてみたら分かるだろう。もし融資先(自分)が借金を返済出来なくなった場合に、頭金がバッファーになって、ローン(預金)を完済できる。
以上のように株式などの返済の必要のないお金のことを総称して「自己資本」と言う。
そして以前は、自己資本=株式というのがセオリーだった。それで特に問題なかった。
インフレと金融自由化
1970年代以前の牧歌的な世界では、預金と貸出、両方の金利が規制されていたことから、銀行は単純に量を拡大すればよかった。量が拡大できれば、預金と融資の金利の差額が利益として保証されていた。銀行業は気楽なビジネスだったのだ。
銀行が倒産する可能性も殆どなかった。銀行の自己資本など誰も気にもしなかった。
金利自由化
ところが1980年代頃から世界的に銀行の経営危機が頻発するようになる。
理由はインフレと規制緩和だ。1970年代の初めまでは、どの国でも金利が政府により完全に規制されていた。ところが、1960年代からインフレが進行し、インフレの原因として各種産業に対する規制が槍玉に上がるようになった。そして鉄道や航空、通信などの分野で規制緩和が行われるようになった。所謂「新自由主義政策」だ。そして、とりわけ規制の厳しい銀行業に対しても金利などの規制緩和が行われるようになった。
この規制緩和の下で、野心的(無謀)な銀行は、高金利で預金を集めて、高収益が見込めるがリスクの高い事業に盛んに融資するようになる。特に不動産と石油が有名だ。
中南米債務危機
またインフレの影響で、1970年代後半になると、それまで高成長をしていたメキシコやブラジルなどの中南米諸国の経済が行き詰まるようになる。この中南米にシティーバンクやチェース、JPモルガンなどアメリカの巨大銀行が巨額の融資を行っていた。そしてこの中南米向け融資が焦げ付くようになり、巨大銀行の経営を脅かすようになる。。これが、今やお馴染みの世界的な金融危機のはしりだ。
金利乱高下
インフレと不況が合体してスタグフレーションが発生すると、各国で金利の上下が激しくなった。それまで短期で預金を集めて、長期の住宅ローンで貸し出しをしているような典型的な地域金融機関は、この金利の乱高下に対応できず経営危機に陥るようになっていった。有名なのが1980年代後半に発生したアメリカのS&L危機だ。
一方で、この金利の乱高下を利用して一儲けする業者も登場した。有名なのが、米投資銀行のソロモンブラザーズだ。ソロモンは、国債だけでなく住宅ローンの証券化(MBS)などにも進出(発明)して、裁定取引と呼ばれるトレーディングで荒稼ぎした。今の投資銀行のはしりだ。そしてリーマンショックの原因を作る事にもなった。
金融危機が頻発
一度金融危機が起きると、世の中は危機に陥った銀行がどれぐらいの損失を抱えているかで疑心暗鬼になった。損失が自己資本(株式)の額の範囲内にあれば、預金は安全と言うことになる。だが銀行の幹部など限られた人間以外には実情が分からなかった(通信やコンピュータが未発達の当時は政府も分からないことが多かった)。当然、銀行に大きな損失が発生したとの噂が広がるだけで、市場はパニックに陥った。
BIS規制登場
度重なる金融危機を受けて、欧米を中心にして、新たな規制が導入された。それが有名な「BIS規制」だ。BIS規制(またはバーゼル規制)の下では、各国の銀行は一定の自己資本を持つように強制された。有名な国際的な銀行は8%、地銀は4%と言う新聞でよく目にするあれだ。
例えば預金と株式合わせて1兆円を融資している銀行なら、そのうちの8%(または4%)は、預金でなくて株式で集める必要がある。金額にすると800億円(400億円)だ。
それまでは、預金をとにかく集めて貸し出すのが銀行のビジネスの基本だった。ところが、このBIS規制が導入されると銀行は、ただ単純に預金を集めれば良いわけにはいかなくなった。預金が増えると同時に、株式などの自己資本を増やさなければならなくなったのだ。
毎年地味に利益を剰余金として積み立てれば自己資本も増えるが、それ以上の伸びは期待できない。もし銀行の利益を更に伸ばそうとするなら(そして自分達のボーナスを増やしたいなら)、融資を毎年の利益の積立以上に伸ばすほかない。そのためには株式による増資が必要だ。
ところが株式を集めるのは容易ではない。株主は当然ながら「利益」を求める。それも出来るだけ多くの利益をだ。そうなると銀行としては、ただ預金と貸し出しを拡大していけばいいという状況ではなくなってしまった。自己資本で制限された預金(融資)で、もっと稼がなければならなくなったのだ。この辺りから現代でお馴染みの銀行経営者の暴走が始まるようになる。
株式だけでは足りない
インフレ不景気が同居するスタグフレーションと金利自由化で、金利や為替市場が乱高下するようになると、銀行はより多くのリスクに晒されるようになる(要は巨額の損失が出る可能性が高くなった)。そうなると当然ながら預金を守るためのバッファーである「自己資本(株式)」をより多くしないと危険極まりない。
自己資本を充実させるには、株式を新たに発行するのが本筋だ。だが利益が増加する裏付けのないままに、新たに株式を無節操に発行すれば「株価が下落」してしまう。株価が下落すると、それ自体にが銀行の信用低下に繋がりかねない。今回のシリコンバレー銀行(SVB)で起きたのがまさにこれだ。
多くの銀行の経営者は、乱高下する金利を横目に見ながら、制限された資産で利益を増大させ、同時に自己資本を充実させなくてはならないという、非常に厳しいタスクを担わされることになった。
持合株に頼る邦銀
このBIS規制という銀行に課された厳しい規制に、当時一番苦しめられたのが、何と我が日本の「邦銀」だ。
1980年代のバブル経済まで、日本の銀行は高度成長のイケイケドンドンのまま単純に規模の拡大に邁進していた。その間、日本の銀行は、株式による自己資本の充実には無頓着だった。理由は簡単で、当時の日本の銀行と大企業は、株式の持合をしていたため、敢えて新株発行の必要性を感じなかったのだ。
またイケイケドンドン路線を支えていたのが、保有していた取引先株式の含み益だ。例えばトヨタの株を戦後すぐに持合していたら、その価値は1980年代には数百倍どころか数千倍にもなっていた。丁度Appleの株を創業直後に買っていたようなものだ。この巨額の株の含み益(バッファー)があったため、邦銀は株式の新規発行には消極的だった。
因みに、この株の利益をなぜ含み益のままにして、実現しなかったのか疑問に思う人も居るかも知れない。主な理由は「持合い」と「税金」だ。銀行の持ち株の殆どは取引先企業との持合いになっていたので勝手に売却できなかった。また売却すれば利益に巨額の税金がかかる。これが「含み益」のままにしていた理由だ。
また、横並びの規制金利の下で、邦銀は巨額の利益を上げて、その大半を内部留保していたが、高度成長やバブル経済で、それを上回るスピードで融資が拡大していた。そのため自己資本比率は極端に低いままだった。
ところが、BIS規制が導入されると、このイケイケドンドン路線に急ブレーキが掛かった。
邦銀と言えども貸出を増やすためには、新規に株式を発行するなどして、自己資本を増やす必要がある。ところが運の悪いことにBIS規制が導入された直後に有名なバブル崩壊が発生してしまった。
本来であれば、保有している株式の一部を市場で売却し、含み益を実現益にすれば、内部留保は増えて自己資本は充実する。しかしバブル崩壊で株価が下落している最中に下手に持ち株を大量売却すれば、株価暴落を助長しかねない。せっかくの株を売るに売れなくなった。
またバブル崩壊で株価が大暴落を演じると、邦銀が頼みにしていた「株の含み益」そのものが急減(場合によっては消滅)する事態となった。
劣後債でごまかす
そこで邦銀が頼ったのが、劣後債だ。
1980年代後半にBIS規制が導入された当初、イキナリ厳しい規制を導入するのは現実的でないとして、様々な「激変緩和措置」が織り込まれていた。その一つが「劣後債」だ。
特に満期までの期限が定められていない「永久劣後債」という奇妙な債券に、当時の邦銀は頼った。
この永久劣後債は、名前の通り銀行が倒産した場合には、預金や一般の社債に比べて、返済順位が低い特殊な債券だ。
その中でも、償還までの満期の期限が定められていな「永久債」と呼ばれる劣後債は、同じく返済がされない「株式」に性格が近いとして、自己資本に算入することが認められていた(規制では自己資本のTier2に含まれる)。ただし株式に性格が近くリスクが大きいことから、普通の社債に比べてかなり高い利息が要求される。
1980年末にBISが導入されると、邦銀の多くは、この新株の発行が必要ない「魔法の債券」に頼るようになる。
今から考えると一種の粉飾決算と言えなくもない。
この劣後債は、ある種の麻薬だ。一度嵌まると抜け出せなくなる。
因みにこの「永久劣後債」は、普通の社債よりかなり利率が高い。そのため、永久と言っても通常は5年後に償還するのが普通だった(通常5年後に銀行は償還する権利、コール権を有している)。
その後の展開はご存じの通りだ。バブル崩壊が長期刷るに従い、邦銀は巨額の不良債権の処理を迫られる。不良債権の処理をすれば、当然自己資本は減少する。しかし株式市場の暴落で新株の発行は出来ない。利益が出ない状況で高利の劣後債でごまかすにも限界がある。と言うことで1997年頃から、自己資本を保てずに破綻する銀行が続出しだした。拓銀、日債銀、長銀などだ。最後は国が公的式を銀行に注入する以外に方法がなくなった。
これが有名な1997年の山一拓銀ショックから2003年のりそなショックまでの一側面だ。
BIS規制陰謀論
欧米諸国には、BIS規制が導入された当初の思惑として、1980年代に飛ぶ時を落とす勢いで国際業務を拡大する邦銀を牽制する思惑があったと言われている。
確かに1990年代に日本のバブル経済が崩壊し、1990年代後半に日本で不良債権問題が拡大するのを欧米諸国は、ほくそ笑んで眺めていた嫌いがある。
実際に2000年代に入ると、欧米の投資銀行や、所謂「ハゲタカファンド」が次々に日本に来襲し、日本企業を安値で買い叩いて言った(日産、長銀…)。
リーマンでBISⅢ登場
しかし皮肉なことに2008年に発生したリーマンショックでは、その欧米金融機関自体に危機が降りかかることになった。ある種の因果応報だ。
リーマンショックの顛末に関しては多数の情報があるので、ここでは割愛することとして、危機の結果としてBIS規制が更に強化されることになった。所謂BISⅢ(バーゼル・スリー)だ。
BISⅢでは、クレディスイスやドイツ銀行のような国際的な業務を行う巨大金融機関に対してより厳しい規制が導入されるようになった。
自己資本に関しても、リスク資産の額だけでなく、流動性や金利変動に対するストレステスト(金利が上昇した時どうなるかのシミュレーションなど)の結果を反映させるなど、より精緻なものが要求されるようになった。
超訳「間抜けなバンカーリスク」
BISⅢの導入の際して問題の一つとなったのが、プロシクリカリティ・リスクと呼ばれるものだ。この舌を噛みそうなリスクは、要約すると「景気の変動に応じて、金融機関が融資を拡大したり(逆もしかり)して景気変動そのものを拡大してしまうリスク(略して「景気循環増幅効果」)」と呼ばれるものだ。
分かりにくいので超訳すると、「バカな銀行の経営者が調子に乗ってドツボに嵌まるリスク」と言う意味だ。このプロシクリカリティ・リスク対策として、普通株式に加えて「資本バッファー」というものが株式などの中核的自己資本(Tier1)に付け加えられた。
この資本バッファーが基準値以下だと、配当や自社株買い、役員報酬(ボーナス)などが制限されるようになった。そうボーナスが減らされてしまうのだ。これは大変だ!
ボーナスが貰えないとペントハウスの改装費も、新しいベントレーの代金も、クルーザーも買えなくなってしまう。強欲な銀行の経営者が慌てたのも想像に難くない。
また劣後債でごまかす
その中で登場したのが今回のAT1債(Coco債)と呼ばれる特殊な劣後債だ。要は1990年代に邦銀が頼った「永久劣後債」の進化ヴァージョンだ。
このAT1債では、今までの劣後債の通り、銀行が倒産した時の返済順位が、預金や社債と比べて低いのに加えて、利率がものすごく高い代わりに、資本バッファーを含んだ中核的自己資本が一定限度を下回るなど一定の条件の下では「いきなり元本が消滅する」というような特殊な条件が付いている(※この条件がないと株式と同列のTier1として認められない)。
いきなりババを引かされる
今回のクレディスイスのUBSによる買収劇では、この特殊な劣後債であるAT1債が、株式に先立って無慈悲にもスイス政府によって「無価値」とされた。
本来は最後に「ババを引く」はずの株式投資家が救済され、株式より返済順位が上(と投資家が勝手に思っていた)AT1債がババを引かされたことで、投資家の間に動揺が広がっている。
果してAT1債とは一体何なのか?投資していた投資家自体がパニック状態だ。
影響・・・最悪、世界金融恐慌?
クレディスイスのAT1債が無価値になったことで、その他の銀行の同じようなAT1債の取り扱いがどうなるのか投資家の間で混乱が広がっている。
投資家自身がパニック
株式より先に犠牲を強いられたことで、その経済的価値に対して疑義が生じてしまった。市場では、特にアジアの銀行が発行している同種の債券が暴落しているようだ。アジアの政府は、今回無慈悲な決定を下したスイス政府より格段に不透明だからだ。
そして今後は銀行がAT1債と同種の債券を発行しようにも、引受けての投資家が現れない可能性もある。
規制を幾ら強化しても限界
過去40年近い金融危機と規制の追いかけっこを振り返ると、規制によってこの問題の根本的な解消は出来ない可能性が高い。傲慢で強欲な金融関係者は、規制が強化されるたびに”抜け穴”を見つけ出してきた。むしろ規制が複雑化する度に、規制逃れの手段が複雑化して、金融危機の処理を難しくしている面がある。将来の破滅的な金融破たんは避けられないかもしれない。
次の金融危機の地雷
最悪のケースとして考えられるのが、金融危機の際に銀行の資本増強を図ろうにも、AT1債による資本増強が出来ないケースだ。そうなると銀行としては株式を発行して増資を行うか、さもなければ資産を圧縮するしかない。
丁度1997年の金融危機の際に、日本の銀行が自己資本を維持ずるために「貸し剥がし」を実行したように、世界的規模で「襲撃な信用収縮」を招きかねない。
スイス政府は、今回意識せずに「パンドラの箱」を開けてしまったのかもしれない。
参考:BISⅢプロシクリカリティ(出典:内閣府)
コラム1-3:規制における景気循環増幅効果(プロシクリカリティ)
規制における景気循環増幅効果とは、自己資本比率規制や引当金に関する規制等により、景気拡大局面に金融機関がますます貸出しを増加させたり、逆に後退局面において規制を満たすために貸出しを縮小させ、結果として景気循環を増幅してしまう効果である。例えば、金融機関は、景気後退局面で保有する有価証券の評価額が下落した場合、評価損を自己資本から控除する結果、自己資本比率を維持するために、貸出しを絞り込むなどして資産縮小を行うこととなる。これが、需要減退を通じて更に景気を悪化させるという悪循環をもたらす可能性がある。また、自己資本比率の分母はリスクウェイト付けした資産の合計であるが、バーゼルIIでは、事業法人向け貸付けについては格付けに応じてリスクウェイトが変化するので、景気悪化に伴い、既存の貸出しがよりリスクの高い資産として分類された場合、結果として自己資本比率を維持するため、他の貸出しを絞り込んで資産を縮小せざるをえないことがありうるのではないかという議論がある(注1) 。
損失の引当についても、同様の問題が指摘されている(注2) 。金融機関は、景気後退期には、要注意先債権や破綻懸念先債権等の増加に対応して多く貸倒引当金を積み増すため、利益が圧迫される。この場合、金融機関によっては、自己資本比率を維持するため、貸出しを縮小させる可能性があり、これが結果として景気を更に悪化させることもありうる。例えば、スペインでは、こうした問題点に対応するため、2000年から新しい引当ルール(dynamic provisioning)を導入している。このルールでは、過去の長期データから求めた貸出しの予想損失を用いて、景気拡大期にはより多く引当てを求め、景気循環の影響を平準化する工夫をしている(注3) (注4) 。ただし、こうしたルールには適用に際して裁量の余地があり、これが透明性を害する可能性もある(注5)。規制における景気循環増幅効果の軽減と、規制の透明性の両立をいかに図るかが重要な論点となろう。
自己資本比率規制における景気循環増幅効果については、既に金融安定化フォーラム(FSF)においても指摘されており(注6) 、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)とFSFが効果の・・・以下略
出典:内閣府「世界経済の潮流」(世界経済の潮流 2008年 II (cao.go.jp))

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