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シリコンバレーバンク(SVB)やクレディスイスの件を物知り顔で話すためのマ ニュアル(3)…ズバリ日本の地銀はヤバいのか?

去る3月11日に米カリフォルニア州にあるSVB(シリコンバレーバンク)という取って付けたような名前の銀行が突然経営危機に陥った(同銀行はその後チャプター11を申請し破綻)。
このカリフォルニア州の一地銀の危機は、あっという間に拡大、ニューヨークにある同様な地銀がもう一つ破綻。更に翌週には大西洋を渡ってスイスの大手銀行であるクレディスイスのライバルUBS銀行による買収劇にまで拡大した。

この突然起きた世界的金融危機を受けて、同じような経営をしている日本の銀行、特に”地方銀行”に対して危機説が流布し始めている。
今回は、日本の銀行は大丈夫なのか?という当然の疑問や懸念に緩く答えてみたい。

※知ったかぶりマニュアル(1)は、以下を参照

SVB(シリコンバレーバンク)とかクレディスイスとかドイツ銀行とかの金融危機を知ったかぶりで話すためのマニュアル | 団地君のゆるゆるセミリタイアライフ (poorblackgoat.com)

利上げで破綻

SVB銀行が破綻の直接の要因となったのは、保有していた債券価格の下落だ。そして、この債券価格の下落を引き起こした原因となったのは、”FRBによる急激な利上げ”だ。

債券=売買可能な借用証書

債券と言われて今一つピンとこない人のために簡単に説明すると、売買可能な借金の借用証書のようなものだ。債券を持っていると、お金を借りている会社から定期的に利子を受け取れる(普通は半年ごと)。また満期になるとお金が戻ってくる。

この債券の代表格は国が発行した国債だ。国はお金が足りなくなると国民(または外国)から借金して当座の不足を賄う。また新幹線や高速道路(あとは戦争)など一年の予算では賄いきれない多額のお金が必要な場合にも国債が発行される(国民から借金する)。一般人が住宅ローンを借りるような感じだ。

この借用証書は、世界中の投資家の間で盛んに売買されている。これが”債券市場”と呼ばれている市場だ。一般人も証券会社や銀行などで国債などの債券を買うことができるが、債券市場のメインププレーヤーは、銀行や生命保険会社、年金基金などの所謂”機関投資家”だ。

この債券市場では、既に発行された国債などの債券が活発に取引されている。値段はその時の経済状況や市況により時々刻々変化する。
国債を保有している投資家に支払われる利子は、ちょうど固定金利の住宅ローンの利子と同じように最初から最後まで変化しない(※利子が変動する債券や利子の支払われない債券もある)。
新しく発行される債券(国債)の金利は、時々刻々変動する債券市場の金利で決められる。そのため満期までの期間が同じでも、以前に発行された債券と最近発行された債券の利率が違うことになる。例えば以下のような感じだ。

  1. 5年前に出た10年満期の国債:利率1%、あと5年で満期
  2. 最近出た5年満期の国債:利率5%、あと5年で満期

市場には同じ満期まで5年でも利率が1%のものと5%のものが同居する状態になる。そして二つの債券の経済的価値は同じ(はず)なので、古い債券の価格が最近発行された債券の価格と同じになるように調整される。

  • 利率1%の5年債券=利率5%の5年債券

最近発行された2番目の債券の方が利率が高く、額面(額面100万円が100万円)で取引されるとすると、利率が1%しかない古い債券の値段は、額面以下(額面100万だが100万円以下の価値しかない)で取引されることになる。利率が少ない分を補填するために値引きされて額面より低い値段で取引される。
この債券の価格は、Googleスプレッドシートやエクセルなどが使えれば、以下のように誰でも計算できる。

利率(%)発行日償還日受渡日利回り(%)価格(円)デュレーションDV01
1%2000/1/12010/1/12005/1/15%82.495872144.8752501864.02188016
5%2005/1/12010/1/12005/1/15%1004.4854327654.485432765
Googleスプレッドシートで筆者作成

表の価格(円)欄を見てもらうと、5年前に発行された利率1%の債券は、今現在の市場金利が5%だと仮定すると(5%の利率の債券が100円で買える)、100円のものが82円49銭でしか売れないことがわかる。差額の17円51銭で利子が少ない分をカバーする計算だ(※差額が利子の差4%の5年分20%より少ないのは、利子の利子、孫利子を考慮して計算しているため)。債券市場の金利が更に上昇する(例えば10%)になると、各債券の価格は以下の通り下落する(金利が下がれば逆に上昇)。

利率(%)発行日償還日受渡日利回り(%)価格(円)デュレーションDV01
1%2000/1/12010/1/12005/1/110%65.252192824.8550103653.168000725
5%2005/1/12010/1/12005/1/110%80.695662684.4137918133.561738553
Googleスプレッドシートで筆者作成

市場金利が10%まで上昇すると、利率5%の債券の値段も2割ほど下落するのがわかるだろう。満期まで持っていれば、額面で償還(返済)されるが、債券の値段、特に満期までの期間の長い債券の価格は、途中結構大きく変動するのがわかる。

地銀のヤバさ判定マニュアル

次は、以上の知識を使って、実際に銀行の損失を推定してみよう。

ザックリ損失を計算

債券を持っていると、市場の金利の上下に合わせてちょうど株価のように値段が上下する。この値段の上下を計算できれば、例えば、ある地銀が”どれほどのリスクを抱えているか?”を計算できる。

具体的には保有している債券の平均的な利率と満期までの期間、そして市場で取引されている金利レベルがわかれば、凡その評価額(損か利益か)を計算可能だ。

その時のツールになるのが、上の例でデュレーションやDV01と表示されている数値だ。この数値は、ザックリいうと金利が0.01%変動した時に、価格が何銭動くかを表示している。金利が5%水準では、満期まで5年の債券の場合、金利が0.01%変動した場合に、約4銭価格が変動することを示している。100倍すると金利が1%変動した時の大まかな損失(利益)を概算できる。この場合だと金利が1%上昇すると4%程度価格が変化する。

アメリカのFRBは、2022年を通じて政策金利をほぼゼロから5%手前まで急激に引き上げた。これに合わせてアメリカ政府が発行している米国債の金利も2%から4%近くまで上昇した(上昇幅は債券の満期までの期間に応じて違う)。2%上昇したとすると、満期まで5年の債券の場合には、価格が8%程度価格が下落している計算になる。債券は満期まで持っていれば元本が返ってくるが、途中で売ろうとすると、時期が悪いと結構な損が出る可能性があることがわかるだろう。

SVB銀行の損失は

SVB銀行の損失はどれくらいだったのだろう。直近の決算では、SVB銀行は28兆円の預金を持っていたそうだ。そして、その52%程度を国債などの債券で運用していたらしい。運用額は約14.56兆円だ。仮に全部5年債で、2%の金利上昇に見舞われたとすると約1.16兆円程度の損失が発生してたことになる(※実際のSVB銀行が保有していた債券の条件は不明、もう少し期間が短い可能性が高い)。実際にSVB銀行が、決算で発表した損失額は3000億円弱だ。この損失は途中売却して損失が表面化した額に過ぎないので、この倍から数倍の含み損があったとすると、遠からずというところだろう。
一方で、SVB銀行は2兆円程(比率でいうと7%強)の自己資本(預金以外のお金)を持っていたようだ。また税引き後で2000億円程度の利益を上げていた。ROEも8%近くあった。そう考えると、大きな金額だが、自分で損失処理できないほどの金額ではない。SNSで取付けが発生していなければ、銀行が破綻するほどの話ではなかっただろう。

満保がマンポでなくなる

では、なぜ今回SVB銀行はあえなく破綻の憂き目を見たのだろう。一つは満保がマンポでなくなったことがある。銀行は資金運用で多額の債券を保有しているが、通常は2つのカテゴリーに分けて管理している。一つは”売買目的有価証券”で、これは決算毎に時価評価が必要だ。含み損が発生した場合には、決算書に損失として計上する必要がある。
一方で、満期まで保有する場合は、”満期保有有価証券”という括りで管理している。これが、所謂”満保(マンポ)”債券と呼ばれるものだ。この”マンポ”に関しては、決算毎の時価評価は不要だ。含み損があっても、決算書に乗せる必要はない。なぜなら満期まで”ガチホ”すれば損失は発生しないからだ。

SVB銀行では、取り付け騒ぎによる預金の流出から、資金を確保するために含み損のあるマンポまで売却せざるを得ない状況に追い込まれたようだ。含み損が実現損になってしまった。そして、この損失を発表したとたんに株価が急落して、一気に”取付け騒ぎ”から銀行破たんに進んでしまった。

日本の銀行はどんな感じ?

それでは日本の銀行、特に地銀はどれ位ヤバいのだろう。日本の銀行の債券保有比率は、ザックリ平均すると3割強というところだ。多いところで4割を超えている。そして、その大半が円建ての日本国債だ。満期までの期間は様々なようだが、極一部の地銀や信金を除くと、せいぜい3年程度だ。先の表と同じ方法で計算した場合は、以下の通り3年満期の国債の変動率は、金利が1%程度上昇したとして、3%程度だ。

利率(%)発行日償還日受渡日利回り(%)価格(円)デュレーションDV01
1%2020/1/12025/1/12022/1/11%1002.9629331642.962933164
5%2020/1/12025/1/12022/1/11%111.79276882.8342163083.168448885

仮に運用資産のうち債券の占める比率が4割として、満期までの期間が3年とざっくり概算すると、金利が1%上昇して、3%の損失が発生したとする。そうすると損失の見込み額は、40%×3%で総資産に対して1.2%程度になる。

日本の銀行は、国際業務を行う大手行で8%(実際は10数パーセント以上)、国内業務のみの地方銀行で4%以上の自己資本を保有している(実際の自己資本比率は更に高く、倍の8%程度あるのが普通)。更にメガバンクなどの大手行に関してはBISⅢの規則でストレステストや流動性など厳しい規制をクリアーしている。1%程度の損失なら十分吸収可能だ。

既に多くの地銀が2022年3月決算で、総額1兆円超の外債運用評価損を計上していが、もし植田新総裁の日銀が20年ぶりの利上げに踏み切った場合には、日本の銀行にもある程度の含み損失が発生することは避けられないだろう。だが、仮に資産総額に対して1%程度の損失が発生したとしても十分カバー可能(ただし何事にも例外はある…)だ。
また殆どの債券が”満保”で保有されていることから、”多額の預金流出”が発生しなければ、満期まで保有すればいいだけだ。その間は、低い利率の債券を保有することになるので、利益を圧迫することになるだろう。だが、債券の満期までの平均期間が3年程度であることを考えると、それもせいぜい1,2年の話だ。

黒田バズーカに救われた

実は、日本の銀行は以前もっと多額の債券(国債)を保有していた。その額は地銀で総資産の6割を超えていた時期もある。しかしアベノミクスの元で黒田バズーカが実施された結果、国債の半分以上が日銀に保有されることになった。日本の銀行の多くは、保有していた債券のかなりの部分、特に満期までの長い債券を既に日銀に売却してしまっている。怪我の功名かどうかは意見が分かれるかもしれないが、結果としてリスが低下している。

例外探しが始まるかも

と言うことで、仮に日本の金利が上昇し始めたとしても日本の銀行が一気に経営危機に陥ることはないだろう。ただ、一部の銀行で多額の外債やリスクの高い仕組債などを保有している可能性は残る。これからの情勢次第では、ヤバい地銀を探す動きが活発になるかもしれない。

そして怖いのは、SVB銀行の取り付け騒ぎのように、預金の流出が銀行に債券の売却を強要することになり、含み損が表面化、自己実現的に銀行を追い込む可能性は排除できない。

補論:エクセルなどでの債券の価格、デュレーションの求め方

エクセルやGoogleシートに以下のように入力する(例はGoogleシート)

関数=price(),と関数=duration()を利用すると簡単に計算できる。

AB
受渡日2020/1/1<=日付を入れる
満期日2025/1/1同上
利率(%)1.00%%で入力
利回り(%)5%%で入力
価格(円)82.50145325<ー”=PRICE(B1,B2,B3,B4,100,2,3)”と入力
デュレーション4.873880323<ー”=DURATION(B1,B2,B3,B4,2,3)”と入力
DV014.021022096<ー”=B5*B6*0.01”と入力
※DV01は、”デュレーション×価格×0.01”

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