10月4日の午前7時半ごろ北朝鮮が、日本の本土上空を越える弾道ミサイルを発射した。久々の日本上空越えで、北海道などではJアラートが鳴った。またこのミサイル発射の影響で東北地方などでは新幹線などが一時運転を停止したようだ。
ウクライナ戦争が行われ、台湾有事が取りざたされている中のミサイル発射だったことや、朝の通勤時間とかさなったことからビックリした人も多いかもしれない。
そこで今回は「北朝鮮のミサイル発射にビックリしないための基礎知識」として皆さんにざっくりした基礎知識を紹介したい。
レーダーでミサイル発射を探知できない
北朝鮮から弾道ミサイルが発射された場合には自衛隊のレーターで探知可能と思っている人も多いかもしれないが、自衛隊のミサイルでは最初は探知できない。理由は簡単でレーダーの電波は水平線の向こう側には届かないからだ。
DSP衛星が発射を探知
代わりに三サル発射を探知しているのが米軍が運用しているDSP衛星という人工衛星だ。この人工衛星は高精度の赤外線センサーを備えていて、ミサイルの噴射の「熱」を捉えることが出来る。アメリカは冷戦時代から、この衛星を使って旧ソ連を中心にミサイル発射を警戒している。
次はレーダーで探知
ミサイルが発射された後にある程度上昇すると、自衛隊が全国に配備してる固定型のレーダーや自衛隊のイージス艦に装備されているレーダーなどで探知が可能だ。その他には韓国に配備されているTHAARDミサイル迎撃システムなどで探知できる。この段階になると基本的には皆が高校の物理の授業で習った放物線の理論を使って、ミサイルの着弾点などの軌道を計算できるようになる。
防衛省・自衛隊:ミサイル防衛について (mod.go.jp)
情報は横田基地にある航空総隊司令部に集約
米軍の人工衛星や自衛隊のレーダーで収集された情報は、東京の横田基地に置かれている航空自衛隊の航空総隊司令部に集約される。そして日本本土に落下するなど日本の安全に脅威が及ぶと判断された場合には、各地に配備されているイージス艦やパトリオットミサイル部隊に迎撃・撃墜命令が下されることになる。
ミサイルを本当に撃墜できるのか?
ここで素朴な疑問として「本当にミサイルを撃墜できるのか?」という疑問が沸いてくるかもしれない。そこでザックリと日本のミサイル防衛システム(MD)の説明をしてみた。
まずはイージス艦
日本本土に脅威が及ぶと判断された場合には、まず日本各地に分散配備されているイージス艦が対処することになる。日本の海上自衛隊はこんごう型4隻、あたご型4隻の合わせて8隻のイージス艦を保有している。そして、このイージス艦にはSM3と呼ばれる弾道ミサイル迎撃ミサイルが搭載されている。このSM3では、一発から数発程度のミサイルなら迎撃可能と言われている。ただ絶対はない。上手くいけば迎撃可能という程度と認識しておいた方がいい。また数十発のミサイルが同時発射された場合には対処は困難だろう。
最後はパトリオットだが・・・
もしイージス艦がミサイルを打ち漏らした場合、最後の砦となるのが有名なパトリオットシステムだ。日本の自衛隊は各地の自衛隊基地に、弾道ミサイルの迎撃が可能なパトリオットミサイル(通称PAC3)を配備している。ただ注意点としては、このPAC3は射程距離が短いことだ。せいぜい40㌔程度と言われている。日本全国をカバーしている訳ではない。自衛隊や在日米軍基地、さらに政府施設やインフラなどの重要施設を守っているだけだ。例えば人里離れた山の中にミサイルの着弾が予想される場合には、PAC3では迎撃できない。
新型ミサイルは撃墜不可
以上のようなプロセスで自衛隊は、北朝鮮のミサイルに対処する予定だが、最近開発が進んでいる新型ミサイルに関しては、迎撃が困難と思われる。極超音速滑空兵器と呼ばれるものだ。代表例がロシアのアヴァンガルドミサイルや中国のDF17と呼ばれるミサイルだ。この種の新型ミサイルは、単純な放物線を描いて飛ぶ従来型のミサイルと違い、途中で軌道が変更可能だ。従ってイージスやパトリオットなどの既存のミサイル防衛システムでは対応不可能と考えられる。北朝鮮もこの種のミサイルを開発しているようだが、今回発射されたのは従来型のミサイルのようだ。
なぜ自衛隊はミサイルを迎撃しないのか?
以上のような重層的なミサイル防衛システムを配備しているのにも拘わらず、今回なぜ自衛隊が北朝鮮のミサイルを迎撃・撃墜しないのか不思議に思っている人も多いだろう。
下手に撃墜すると被害が出る恐れ
第一に考えられるのが、下手に迎撃すると被害が出る恐れだ。もしミサイルを迎撃して撃墜に成功した場合でも、破片が降って来ることになる。ミサイルは軌道を予測できるが、破片の場合にはどこに落ちてくるのか予想が難しい。日本本土に着弾しないことが確実であるならば、下手に撃墜しない方がいいと判断したのだろう。
日本への攻撃と見做せるか微妙
もう一つ考えられるのが、日本への直接攻撃と捉えられるか微妙という点が考えられる。今回北朝鮮が発射したミサイルの最高高度は、報道によると1000キロメートル程度と言われている。低軌道の人工衛星だと高度は400㌔程度しかない。これは国家の領空の範囲が大気圏の存在する100キロ程度と見做されているためだ。そして人工衛星が他国の上空を通過した場合でも、通常は領空侵犯とは見做されない。軍用のミサイルがこれに当たるかに関しては、正式な国際的な規定はないようだ。今回のミサイル発射でも、北朝鮮は外国船舶の航行が認められている青森県の津軽海峡上空を通過させている。一応は配慮しているようにも見える。
また日本が北朝鮮のミサイルを迎撃・撃墜した場合には、逆に日本が北朝鮮に対して戦争行為を行ったと北朝鮮が主張する可能性もある。ウクライナ戦争で国連の安保理が機能不全に陥っている現在、日本がミサイルを撃墜した場合には、逆に中国やロシアなどから日本が先制攻撃を行ったと非難されるリスクがないわけではない。この辺りの事情も日本政府は考慮しているのかもしれない。
北朝鮮は何故ミサイルを打ち続ける
そもそも論として北朝鮮はなぜミサイルを打ち続けるのか不思議に思っている人も多いかもしれない。もとを辿ると今から30年前のベルリンの壁崩壊と旧ソ連崩壊による冷戦終了まで遡る。
ロシアから石油が買えなくなる
話は今から30年前の旧ソ連崩壊まで遡る。1080年代まで北朝鮮は旧ソ連から実質タダで石油を購入出来ていた。この実質タダの石油を使って北朝鮮は、それなりに安定した運営が行われていた。
ところが旧ソ連が崩壊すると、後継のロシア政府は、北朝鮮に対して石油代金のドル払いを要求し始めた。しかし世界から孤立していた北朝鮮には石油を買う外貨のドルが殆どなかった。このままだと北朝鮮は石油不足から経済が崩壊する寸前に追い込まれた。
中国からの経済開放要求を拒否
この時点で北朝鮮にはいくつかの選択があった。一つは改革開放と社会主義市場経済で、実質的に資本主義の仲間入りをした中国と同じ道を歩むことだった。元々北朝鮮にはレアアースなどの豊富な地下資源があることが知られていて、教育レベルの高い国民を労働力として利用すれば、中国の様に発展する可能性があった。しかし、もし経済開放を実施すれば、当然ながら民主化を国民が求めるようになるかもしれない。また朝鮮戦争以来長年戦争状態にあった韓国に飲み込まれる可能性も高かった。
そうなれば朝鮮を長年支配していいた金王朝とその取り巻きの運命は神のみぞ知るだ。当時ベルリンの壁が崩壊して東欧が民主化された過程で、ルーマニアのチャウチェスク大統領が国民に処刑されるという事件も発生していた。また長年に渡って社会主義の星と目されていた東ドイツが西ドイツとあっさり統合してしまったことも、北朝鮮指導部が経済開放を躊躇する要因だっただろう。
核兵器を使った「強請り(ゆすり)」路線に転換
そこで北朝鮮がとったのが「核兵器を使った強請(ゆすり)路線」だ。ロシアも中国も頼りにならないとなると、後は自分たちで何とかするしかない。核兵器とミサイルを開発する素振りを見せて、日本やアメリカなどの西側諸国から「ドルを強請る」という戦略だった。この路線にそって北朝鮮は密かに核開発を開始した。1993年にその核開発がNPTの査察で発覚するとNPTから脱退して核開発を強行しようとした。
アメリカが妥協してKEDO締結
この北朝鮮核開発強硬の動きに対して、当時のアメリカのクリントン政権では、北朝鮮の核施設への空爆が真剣に検討されていたようだ。しかし空爆実施の土壇場になって、カーター元大統領が北朝鮮を訪問し、北朝鮮の当時の指導者だった金日成から妥協の用意があるとメッセージが伝えられた。当時のクリントン政権は、軍事行動を直前で取りやめて北朝鮮と妥協することにした。もし北朝鮮を空爆した場合には、北朝鮮がソウルを攻撃するなど、第二次朝鮮戦争の可能性が高かったためだと言われている。その時に結ばれたのがKEDOと呼ばれる合意だ。このKEDOの元で、アメリカは北朝鮮の電力確保のために原発を2基建設するとともに、原発が完成するまでは、北朝鮮に年間50万トンの重油を供給することになった。結果だけ見れば、北朝鮮の「強請(ゆすり)戦略」が成功したことになる。
その後も核開発が続く
一旦はKEDO強引で核開発を止めると表明した北朝鮮だが、その後もご存じの通り核開発を止める事はなかった。色々な要因が複雑に絡み合っているが、21世紀に入りアメリカでネオコンのブッシュ政権が誕生したことも大きな要因の一つだろう。当時ブッシュ政権は9・11の同時多発テロを受けてテロの主犯のアルカイダだけではなく、同時多発テロには全く関係のなかったイラク、イランや北朝鮮まで「悪の枢軸」として非難した。そして実際に核開発を理由に、イラクのサダムフセイン政権に対して攻撃を開始してしまった。北朝鮮としては一旦KEDOを結んで核開発を放棄するとしていたものの、いつアメリカから攻撃されるかと怯えることになったのだろう。
中国が経済発展して意味が変わる
21世紀に入ってからも北朝鮮は核とミサイルの開発を続けている。そして、その間に国際情勢も大きく変化た。特に重要なのが中国の発展だ。30年前には、ドルを入手するためには米国と日本を核で強強請るしか手がなかった。しかし今なら経済大国の中国に頼ればいい様に思える。なぜ北朝鮮は中国に頼らないのだろう。ここで北朝鮮にとって核とミサイルの意味が変化している可能性が見えてくる。もし北朝鮮が今中国に頼れば、北朝鮮は忽ち中国に飲み込まれて属国化せざるを得ないだろう。朝鮮半島と中国の過去の歴史を考えれば北朝鮮としては中国の属国化は避けたいだろう。そう考えると実は今の核とミサイルの本当の狙いはアメリカや日本ではなく、北京なのかも知れない。
個人での対応策は特になし
正直この件に関しては個人での対応策は限られている。そもそも日本へのミサイル攻撃が行われるのは、北朝鮮が国家存亡の危機に立たされた時だろう。要は第二次朝鮮戦争が勃発した時だ。その場合にに第一に狙われるのは、日本にある在日米軍基地になるのは間違いない。また仮に核攻撃が行われた場合には逃げようがない。どうしても危険を避けたいのなら、在日米軍基地や自衛隊基地のない地域に移住でもするしかない。あとはJアラートのアプリを入れるぐらいだ。それ以上心配しても無意味だ。
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