9月22日の午後遅くに日本政府は24年ぶりの円買いドル売り介入に踏み切った。事前に政府当局から「あらゆる手段を動員する云々」の発言があったことからも、事前にある程度予想していた人も多いだろう。その効果はさておき、今回は「ものしり顔で語る為替介入の基礎知識」として為替介入の仕組みについて適当に解説してみたい。
為替介入てどうやるの?
まず為替介入だが、外為市場の過度の変動を抑えるために政府が為替市場で外貨を売買することだ。通常は、銀行の外為ディーラのところに日本銀行からドル売り(またはドル買い)などの外為の注文が入ることで行われる。以前は電話で注文が入ったが最近はEBS(エレクトロニクス・ブローキング・システム)というネット証券のようなシステムが主に使われているので、日銀が直接EBSシステムで売買することもあるだろう。また主要な銀行のディーリング部門と日銀とはホットラインで結ばれている場合もある。あとは普通の外為の売買と基本は一緒だ。
売買したドルや円の受け渡しに関しても基本は銀行間の売買と一緒だ。最近は一般銀行の場合の場合には、取引相手の倒産リスクであるカウンターパーティー・リスクを回避するためにCLSという外為専門の一種のエスクロ銀行が使われるケースが多い。しかし相手が中央銀行の場合には直接受け渡しが行われる。日本国内の銀行相手の場合には「外為円決済システム」という日銀ネット上のシステムを使って円が受け渡される。ドルは日本銀行がFRBのNY支店に持っている口座を使うケースが多い。
お金はどこから調達するの
外貨を売買するのだから当然資金が必要になる。資金調達に関しては、ドル売りとドル買いで手順が異なる。
円高阻止介入(円売りドル買い)介入の場合
介入と言って一番最初に思い浮かぶのが、円高を阻止するための「円売りドル買い」介入だろう。この場合には、「売るのは円」なので、いくらでも日本政府は調達できる。具体的には「政府短期証券(FB)」という一種の短期国債のようなものを発行して調達していた。このFB(政府短期証券)は期間が1年以内の短期の特殊な国債のようなものだ。丁度企業が短期の資金繰りのために発行する「融通手形」の政府版と思えばいい。また2021年からは、別にあった短期国債と統合されて「国庫短期証券」として発行されている。この国庫短期証券は、一応市中引受けが原則となっている。発行に際しては、銀行に対して入札行い資金調達が行われている。為替介入に際しては、このFB(国庫短期証券)で円売り資金を調達して円売りドル買い介入が行われる。もし市中銀行の入札だけでFBがさばききれない場合には、例外的に日銀の引受も認められている。
円安阻止介入(円買いドル売り)介入の場合
今回行われた為替介入は、円安阻止を目的としての「円買いドル売り」介入だ。この場合には、「売るドル」の調達が問題になる。円と違って幾ら日本政府や日銀でも「ドルを刷る」ことはできない。売れるドルは、政府が保有している「手持ちのドル」に限定されてしまう。直近では日本政府は1.3兆ドル(約180兆円)のドルを保有しているようだ。このドルの大半は、アメリカのFRBニューヨーク支店に日銀が持っている口座で保有されていると思われる。通常は使う予定もないので、FRBに委託する形で3ヵ月程度のアメリカの短期国債(TB)で運用されている。
ドル売りをするには、このドル建てTBをまず売却してドルのキャッシュを作り、それを外為市場で売却する手順になる。当然なら大量のドル建てTBを売却するとアメリカの金利に影響が及ぶ可能性があるので事前に相手国との調整が必要になる。またFRBは必要に応じて日本政府が保有しているドル建てTBを担保にドルを貸してくれる場合もある。
足りなくなったらスワップ協定
もし円買いドル売り介入をする資金が枯渇した場合にはどうするのだろう。まず「通貨スワップ協定」を使うことが考えられる。日本政府は主要国とイザという時のために通貨をスワップ(交換)する協定を結んでいる。ドルが不足した場合には、アメリカ政府に円を渡すことで交換にドルを借りることが出来る。ただし無限に借りることは出来ず、当然限度額が事前に決まっている。
韓国が日本政府に通貨スワップ協定の締結を求めているのは有名な話だ。1997年の通貨危機では、韓国政府は韓国ウォンの暴落に際して、ドル売り韓国ウォン買いを行った韓国政府は手持ちの外貨を使い果たしてしまった。未だに韓国ウォンは国際通貨扱いではないので、米国やEUは韓国政府と通貨スワップ協定を締結していない。
追い込まれたらSDR
もし通貨スワップの枠も使い切ってしまった場合にはどうするか。その場合にはIMF(国際通貨基金)のお世話になることになる。各国はIMFに参加するに当たって自国通貨で出資金を支払っている。要は入会金だ。この入会金の範囲内で各国にはSDRという主要通貨に連動する引き出し権が与えられている。このSDRはドルやユーロ、円などの主要通貨と交換できる。民間金融機関に売却することもあるが、通常は各国の中央銀行にSDRを対価に通貨の売却を求めることになる。
最後の砦IMF
もしSDRも使い切ってしまった場合にはどうなるか。全ての外貨準備を使い果たすと輸入が出来なくなる。日本も石油や穀物が輸入できなくなり、下手をすると飢餓が広がることになる(その点、自国で自給できるロシアは意外に強い)。その場合には、バンザイしてIMFに融資を頼むことになる。ただしこの融資には通常非常に厳しい条件が付く。まず政府予算の均衡。日本の財政は恒常的に赤字なので、当税ながら年金や健康保険、公務員の給料などが大幅に削減されることになるだろう。また新規の公共事業などは全て中止。補助金なども絶対必要なもの以外は軒並み廃止ということになる。当然、国内経済は大不況に陥り、貧困層に転落する国民も多数に上ることになる。あとはIMFの管理下で太平洋戦争後のように国民は耐乏生活をしながら経済を立て直すことになる。
IMFと聞くと一見華やかな国際機関を想像しがちだ。だが実際の構造は、各国が出資金を出し合い、それを原資に加盟国に融資する「頼母子講」や沖縄で有名な「もやい」に近い。また融資条件は非常に厳しく、まるで「高利貸し」「街金」のようなものだ。
ドル売り介入には限度がある
以上の為替介入の仕組みを理解すれば分かる事だが、「外貨(ドル)売介入」には限度があるということだ。今回の為替介入で政府は数兆円から10兆円程度のドルを売却して円を購入したものと考えられている。理屈上は半分の100兆円を使い切るまで、あと10回程度の為替介入が可能ということになる。これを多いと考えるか少ないと考えるかは微妙なところだが、回数に限度があることには注意が必要だ。もし日本政府が介入に失敗して円安になれば、逆に底なしの円暴落に向かうリスクもある。
個人の外貨預金(キャピタル・フライト)阻止が目的か
今まで半年に渡って頑なに動かなかった日本政府が、今回突然に為替介入に動いた。その目的を考えると、「日本の国民が外貨預金に動く」ことを阻止することではなかったかと考えている。所謂「キャピタル・フライト」だ。もしドル円レートが節目の一ドル150円を越えてくると、今まで外貨預金に興味もなかった一般の日本国民がドル買いに一斉に動くリスクがある。日本の個人金融資産は2000兆円を越えている。そして、その半分超の1000兆円程度が円の現預金だ。もしこの10%でも外貨預金に動けば、100兆円の円売りドル買いが発生することになる。既に一部の日本人投資家の間では、「米国株」投資がブームになっている。これが一般庶民の間にも浸透してくると、場合によっては「円の大暴落」を招きかねない。150円手前で円安をブロックすることで、このキャピタル・フライトの動きを阻止しようとしたのかもしれない。
日銀総裁交代までの期限付きか?
為替介入があった9月22日には、一時一ドル140円台まで円高が進行しが、その後は若干戻して142円から143円程度で推移している。もし大幅に円安を修正するのであれば、更に押し下げの介入が必要だと思われるが、140円割れまの強引な下押し介入は行われていないようだ。また日本銀行が現在の超金融緩和政策を続け、FRBが利上げを継続する限り大幅な円安の修正には、幾ら日本政府の力をもってしても限界がある。
そう考えると今回の為替介入の目的が見えてくるように思える。取り合えず日銀の黒田総裁が退任して、日銀が現在の超金融緩和からの出口を模索し始める来年初めまで、またFRBの利上げが一巡する今年の年末まで、何とか一ドル150円を越えないレベルを維持するというのが、今回の介入の目的と考えると、このタイミングでの介入にも納得がいく。
政府の思惑通りに行くかは神のみぞ知る
折しも岸田総理はNYの会見で、10月17日から外国人の入国制限を事実上撤廃すると表明した。今後、円安による効果が出てくれば、輸出が増加しインバウンド効果も出てくるだろう。景気が徐々に回復して来れば、経常収支の悪化にも歯止めが掛かり、ファンダメンタルズ面での円安要因は徐々に薄れてくるかもしれない。またFRBの利上効果で米国景気の後退懸念が出てくれば、これ以上のFRBの引締め観測が後退してドル高が止まるかもしれない。
以上のように上手く事が進めば、来年の年初に掛けての短期的な為替介入は、成功裏に終わるだろう。しかし今年の冬にかけてウクライナ情勢が更に深刻化する場合や、エネルギー危機が深刻化する場合、またコロナの感染拡大が再び起きる場合も想定される。
大幅なドル・ロングは一旦取りやめも
個人的には、かなり前から資産の半分は外貨にしていたので、今回の円安を受けても何も変わることは無い。円建てでは大幅に儲かっているように見えるが、インフレによる購買力の目減りを考えると、実際にはトントンだろう。ただ大幅なドル・ロングは一旦取りやめた方がいいかもしれない。為替介入が怖いからとうのではない。今回の円安を先導したFRBと日銀の金融政策の祖語に終わりが見え始めているからだ。今回の為替介入は現行の日銀の金融政策が節目を迎えている兆候と見えなくもない。
最後に円安派が多数を住める現状を眺めて、以下の相場の格言で締めたい。
もうはまだなり、まだはもうなり。
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