参議院選挙の最中、7月8日奈良県の近鉄西大寺駅前で元総理が銃撃され亡くなるという衝撃的な事件が発生した。この暗殺事件は、内外に大きな衝撃を広げている。今回の襲撃事件で最大の問題の一つとなっているのは、警察はテロを防げなかったのか?ということだ。
日本は隠れたテロ先進国
昨年末に大阪の西梅田にある心療内科クリニックで放火事件が発生した時に、以下のようなブログを書いた。一見、安全安心に見える日本だが、実は世界最先端のテロ大国だという話だ。そしてこの種のテロを防ぐにはプロファイリングによる情報収集が有効なことを紹介した。しかし再び、今回は元首相を狙った凶行が発生してしまった。
自家製の拳銃が使われた
今回のテロ事件の一番の特徴は、凶器として「自家製の拳銃」が使われたということだ。既に報道されている通り、この自家製の拳銃は身近に手に入る材料を使った誰でも作れるものだ。京都アニメーション事件ではガソリンが凶器として使われ、その後に模倣犯が続出したことは周知の通りだ。また今回使われた拳銃の大きな特徴に「電気着火」が使われた点が挙げられる。いままでは、自家製武器の製造に関して、火薬などの爆発物を着火する方法が技術的なハードルの一つだった。しかし今回、電気着火が広く周知されたことから、模倣犯が続出することは論を待たないだろう。また今回使われたDIY拳銃は、比較的単純なものだったが、知識や技術のある人間が製作に関れば、さらに高度な武器の製造も比較的容易だろう。
イラク戦争でのIED(即席爆発装置)が元祖
今回使われたような民生品を使ったDIY(自家製)兵器の元祖と言えるのが、2003年からのイラク戦争で使われたIED(即席爆発装置)だ。イラク戦争では現地のイスラム武装勢力が、遺棄された旧イラク軍の砲弾などから取り出した爆薬に、携帯電話を起爆装置として取付たもので米軍を攻撃して大きな威力を発揮した。以前なら精密な時限装置などは、専門軍事組織しか利用することができなかった。そこでテロリストは、目覚まし時計などを改造して、原始的な時限爆破装置を作るしかなかった。しかしスマホやドローンなどのハイテク製品が普及した現代では、知識さえあれば遠隔操作の時限爆破装置を簡単に作れる。
ドローン・自動運転テロ
現在行われているウクライナ戦争では、ドローンが広範囲に使用されている。10数年前にドローンが初めて登場した時の大多数の印象は、新しい楽しいおもちゃ程度の認識だっただろう。だが当時からドローンが軍事目的に利用可能なことは多くの専門家が指摘していた。更にここにきて、各国で自動運転の自動車の開発が急ピッチで進んでいる。そして遅くとも10年後には自動運転車が実用化されると言われている。この自動運転車が将来テロ事件に使われることは、ほぼ確実だろう。
ロボット工作機械
更に今後のテロ事件で予想されるのが、ロボットを使った武器製造だ。今回の銃撃事件でも、当初武器の製造に3Dプリンターが使われたのではないかとの憶測が流れた。今後は3Dプリンターに加えて、安価なロボット工作機械が普及することが予想されている。このようなロボット工作機械を使えば、今まで不可能だった高精度の武器をDIYで制作することも可能になるだろう。
テロ事件を防ぐ効果的な方法
今回のテロ事件を含め、従来の警察力でこの種のテロ事件を事前に防止することは可能だろうか。今回の事件でも現場には多数の警察官が配備されていたにも拘わらず犯行を防ぐことが出来なかった。また犯人は、遅くとも数か月前から拳銃や爆弾を含む多数の武器を製造していたと供述している。しかし従来の警察の情報収集システムでは、事前情報を察知することが出来なかった。では、この種のテロ犯行を防ぐ方法はないのだろうか。実は以前から効果的な方法は知られている。それは「プロファイリング」だ。
犯人は特定の属性
最近続発する不特定多数を狙ったテロの犯人には、誰でも気づく特徴がある。「男性」「無職(又は非正規雇用)」「未婚(または離婚)」「孤独」などの特徴だ。このように属性で個人をスクリーニングする手法を「プロファイリング」と言う。このプロファイリングによるスクリーニングで有名なのが、イスラエル国営航空「エルアル航空」だ。1970年代にアラブテロリストによるハイジャック事件が続発したことから、エルアル航空は乗客に対してプロファイリングを取り入れている。その後は、エルアル航空の旅客機がハイジャックされる事件は発生していない。
SNSでの検索履歴
今回の銃撃事件でも、犯人は銃の作り方をYoutubeなどの動画サイトで知ったと供述しているようだ。またターゲットの当日の動向も、SNSで知ったらしい。このようGoogleなどの検索エンジンやSNSで特定の情報を検索する人間を特定することは、技術的には、比較的簡単だ。
スマホの位置情報
更に現代ではスマホの情報が利用可能だ。位置情報で個人の行動を把握、加速度センサーの情報を利用すれば、個人の生活パターンである食事、通勤、睡眠などだけではなく、入浴やトイレのタイミングまで把握可能だ。実際に大手IT企業は、これらの情報を収集して広告配信に利用している。これに加えてクレジットカードや「○○ペイ」などの電子決済、航空機や新幹線、ホテルなどの予約情報、更にAmazonや楽天などのECでの購買履歴を組み合わせれば、犯罪を犯す可能性のあるテロリスト予備軍を炙り出すことは、技術的に十分可能だ。
AI顔認証でトラッキング
スマホの情報に加えて、最近ではAIによる顔認証が急激に進歩している。既に駅や空港、大規模ショッピングモールなどには多数の監視カメラが設置されている。このカメラをオンラインで結び、顔認証システムを組み合わせれば、テロリスト予備軍の追跡・監視が可能だ。今回の元総理襲撃事件の様な状況の場合は、事前に周辺に居るテロリスト予備軍の位置を把握し、職務質問をするなど事前に対応を取ることが可能だっただろう。
元祖はアメリカのシステム
AIやインターネットを用いたテロリスト監視システムというと、まるでSFの世界の話と思った人も多いかもしれない。しかし実は、この種のシステムは、20年前から既に稼働している。元祖と言われているのが、1999年にアメリカ国防総省により計画されていた「全情報認知システム(TIA)」と呼ばれる情報システムだ。このTIAシステムでは、個人のインターネット検索履歴や、携帯電話の位置情報、銀行やクレジットカードなどの決済情報、航空機やレンタカー、ホテルなどの予約状況の情報を一括統合してプロファイリングを行い、テロリスト予備軍を炙り出すというものだ。この計画は、レーガン政権の国家安全保障大統領補佐官も務めたジョン・ポインデクスター海軍中将の指揮の元にDARPA(国防高等研究計画局)が中心になって開発が行われる予定だった。しかし計画がマスコミにリークされたことから議会などで非難を浴び、計画は一旦お蔵入りとなった。開発の経緯に関しては以下の書籍が詳しい。


Total Information Awareness – Wikipedia
9・11同時多発テロで復活
一旦お蔵入りになって居たTIAシステムだが、その後に発生した9・11同時多発テロで名前を変えて復活することになる。計画当初に懸念の多かった個人のプライバシー保護に関しても、9・11テロを受けて「愛国者法」が制定されたことから政府による情報収集に対して障害が取り除かれた。また対テロ情報を統合する機関として「国土安全保障省(DHS)」が設置されたことも情報システムの導入を後押しした。この9・11同時多発テロ後に導入されたテロ監視システムの一つが、後にエドワード・スノーデン氏が暴露した「プリズム」システムだ。今では、英米だけでなくロシアや中国、民主化運動が燃え上がったエジプトなど、あらゆる国家でこの種の監視システムが稼働している。
日本はどうする?
今後日本でも、今回の銃撃テロ事件を受けて、「ハイテク監視システム」の導入の是非が議論されることになるだろう。その際には、プライバシーの保護や情報保全の仕組みだけでなく、そもそも日本国政府、特に警察にこの種のシステムに精通した人間が居るのかと言う根本的な問題が表面化するかもしれない。

コメント