2022年2月下旬にロシアによるウクライナ侵略で始まったウクライナ戦争も早3ヵ月が経過した。当初のロシア軍圧勝の予想を裏切り、現在はウクライナ東部を巡っての一進一退の攻防が続いている。このウクライナ戦争に対する反応を見ていると、知らない地名や歴史が出てきて混乱している人も多いだろう。また特に軍事に関しては、知識不足を実感している人も居るかもしれない。そこで今回は、手っ取り早く特に東ヨーロッパからロシアにかけての戦争の歴史を学べる、お勧め本のガイドブックを作ってみた。
レン・デイトンの「電撃戦」・・・まずはこの一冊

最初に一読をお勧めしたいのが、イギリスのミステリー作家レン・デイトンの「電撃戦」だ。この本では、第二次世界大戦初頭にフランス軍を僅か2週間で崩壊させたドイツ陸軍の電撃戦が描かれている。また戦車を中心とした「電撃戦」誕生の歴史的経緯や実際の運用なども詳しく記されている。さらに現代の陸軍で広く利用される基本的な武器や装備がイラストや写真入りで紹介されてもいる。軍事問題になじみのない一般人でも読みやすい。既に本書は廃刊となっているが、Amazonなどで中古本が購入可能だ。
レン・デイトンの「戦闘機」・・・同じく最初の一冊に
次に紹介したいのが、同じくレン・デイトン著の「戦闘機」だ。この本では、第二次政界大戦中の有名な航空戦である「バトル・オブ・ブリテン」の戦いの様子が描かれている。1940年夏、フランスを僅か2週間で敗北に追い込んだナチス・ドイツ軍は、次なる目標としてイギリス侵攻を計画した。その前段階としてイギリスの制空権の奪取を狙ったドイツ空軍とイギリス空軍の間で、ロンドン上空を含むイングランド南部で激烈な航空戦が展開された。当初は絶対優勢と思われていたドイツ空軍に対して、イギリス空軍は、スピットファイア―やハリケーンを中心とする戦闘機軍団で迎え撃った。

またこのバトル・オブ・ブリテンでは、レーダーによる敵の探知や、コントロールセンターによる迎撃戦闘機の無線誘導が行われるなど現代の航空戦の元祖ともいえる技術が導入されている。現在の日本で問題になっているミサイル防衛構想などを考えるうえでも参考になる。

本書も電撃戦と同様に廃刊になっているが、Amazonなどで中古で入手可能だ。
バルバロッサ作戦・・・パウルカレル

次にお勧めなのが、ドイツ人作家パウル・カレルの「バルバロッサ作戦」」だ。1941年6月にヒトラー率いるナチス・ドイツ軍は、不可侵条約を結んでいたスターリン率いるソ連を奇襲攻撃した。この奇襲攻撃作戦に付けられた名前が「バルバロッサ作戦」だ。そしてバルバロッサ作戦が第二次世界大戦最大の戦いである東部戦線の始まりとなった。その後約3年半に渡って、ナチス・ドイツ軍とソ連軍との間で血みどろの凄惨な戦いが繰り広げられることとなった。東部戦線では、3年半の戦いでドイツ側で300万人以上、ソ連では3000万人近い犠牲者が出たと言われている。

今回ウクライナ戦争の舞台となっている地域は、このバルバロッサ作戦で主要な戦場となった場所だ。一般人には馴染みの薄い「キーウ」や「ハルキウ」「メリトポリ」などの地名も、戦争の歴史が好きな人間にとっては馴染みのものだ。

焦土作戦・・・史上最大のクルスク戦車戦
バルバロッサ作戦と同じドイツ人作家パウル・カレルの作品。この2作は一連の作品となっている。この焦土作戦では、1942年の有名なスターリングラードの戦いから、史上最大の戦車戦で有名な「クルスクの戦い」を中心に描かれている。クルスクという地名は今回のウクライナ戦争でも度々登場している「ハルキウ」の隣にあるロシアの都市だ。このハルキウからクルスクにかけての地域では、1943年春にナチス・ドイツ軍とソ連軍との間で、双方合わせて3000両近い戦車を投入しての大激戦が展開されている。

またウクライナの首都キーウ(キエフ)も独ソ戦後半の戦いで主要な舞台になった。キーウを流れるドニエプル川は、ウクライナの母なる川であるとともに、主要な防衛ラインの一つだった。この本にもキーフを巡る攻防戦も詳しく描かれている。

また主要な戦線の一つである「レニングラードの戦い」の部分も注目される。現在のプーチン大統領は、レニングラード(現サンクト・ペテルスブルグ)生まれだ。プーチン自身は戦後生まれだが、プーチンの両親はレニングラードの戦いで餓死しかかっている。またプーチンの兄は戦争中に栄養失調で亡くなっている。プーチン大統領の執拗な西側に対する猜疑心を理解するためにも、第二次大戦中のレニングラードの戦いの知識は必須だ。

クルスクの戦い1943・・・東部戦線のミッドウエー
正に今戦争の舞台となっているウクライナの東部地域で、1943年に戦われたのが「クルスク大戦車戦」だ。このクルスク大戦車戦に関して、東ドイツ生まれの著者により最近(日本では2020年)発刊されたのが本書。最新の研究成果も織り込まれいる。

日本ではあまりなじみがないが、クルスクの戦いは第二次世界大戦の転換点になった戦いだ。独ソ双方合わせて3000両以上の戦車が投入されて大激戦が展開された。敗北したドイツ軍は、主力の大半を失い、その後は1945年の敗戦まで守勢にまわることになった。ちょうど太平洋戦争のミッドウエーの戦いに匹敵する戦いだ。現在のウクライナ戦争を理解する上で、このクルスクの戦いの知識は不可欠だ。
スターリングラード・・・アントニー・ビーバー

独ソ戦の転換点の一つとなったのが、1042年から1943年にかけて戦われた有名な「スターリングラード(現ボルゴグラード)の戦い」だ。スターリングラードの戦いでは、独ソ双方がそれぞれ50万人近い兵力を投入して半年近くに渡って激戦が展開された。そして最終的には、ソ連軍の反撃によりドイツ軍の第6軍が包囲殲滅された。また第6軍司令官だったフォン・パウルス元帥がソ連軍に降伏するという前代未聞の事態が発生してもいる。この旧スターリングラードもウクライナからそれ程離れていない。ウクライナからロシアにかけての黒海からカスピ海に跨る地域は、ロシアの安全保障の要であることが理解できるようになるだろう。
注意点としては、著者のアントニー・ビーバーは、後にヒトラーを礼賛しているとして訴訟になったり批判を浴びたりしているので、ナチスやヒトラーに関する記述は割り引いて考える必要がある。
モスクワ攻防戦

補給戦・・・補給失くして勝利なし
戦争における「補給」を扱ったほぼ唯一の本と言えるのが本書。最初に出版されたのは1980年なので40年も前になる。最近になって新版が発行された。戦争の歴史は、ややもするとゼロ戦や戦艦大和、タイガー戦車などの兵器や、ロンメル将軍や山本五十六など軍人ヒーロを中心に描かれることが多い。しかし戦争の勝敗を最終的に決めるのは「補給」だ。この本では、近世以降にあった主要な戦争を補給編から解説している。ウクライナ戦争の舞台にもなっている第二次世界大戦の東部戦線に関しても、通説に反してドイツ軍の機械化が不十分だったと論じた部分は目からうろこの点だ。また砂漠のキツネで有名なロンメル将軍の作戦を批判した部分は当時かなり欧米で物議を醸したらしい。

戦車の神様・・・電撃戦グデリアン回想録

現代の戦車を中心とした「電撃戦」を開発したとして有名なグデリアン将軍の回想録。電撃戦の発想から、その発展の歴史を当事者の話として読める。グデリアンは1940年の対フランス電撃戦では、主力の戦車部隊を率いてフランス軍を撃破。また翌年1941年のバルバロッサ作戦でも主力の戦車軍団の指揮官を務めた。しかし1941年冬のソ連軍反撃の際に撤退を進言してヒトラーから罷免された。その後は戦争後半に陸軍参謀総長に復帰して終戦を迎えた。

注意点としては、旧ナチス・ドイツ軍の旧軍人の回想録全般に言えることだが、ヒトラーやナチスの戦争犯罪、ナチスと自分との関係について自己正当化や事実の歪曲が行われている可能性が指摘されている。その点は割り引いてみた方がいいだろう。
ベルリン陥落1945
前景のスターリングラードと同じアントニー・ビーバー著のベルリン攻防戦を描いた作品。出版時には世界的ベストセラーになっている。現在のウクライナ戦争に対する特にドイツの複雑な対応を理解する上で、第二次世界大戦終盤のベルリン攻防戦の経緯を知ることは意味があるだろう。軍事的な事柄以外では、終戦後にソ連兵により大量のドイツ人女性がレイプされたことも言及されている。

コメント