足元で急激な円安が進行している。年初は115円台だったドル円相場は、2022年6月13日に、ついに目先のターゲットだった135円を越えてきた。そして今のところ円安がおさまる気配はない。
1992年のボンド危機に似た展開
今回の急激な円安を見ていて既視感(デジャブ)に襲われた。それは今から30年前、1992年に起きたポンド危機だ。この時にはERM(欧州通貨システム)にペッグしていたイギリス・ポンドがヘッジファンドなどの投機筋に攻撃された。詳細は以下のブログを参照。
日銀が指値オペを止める日
1992年のポンド危機の際にには、不況で利下げが必要な状況にも拘わらず、EMSの2.25%のペッグ幅にポンドの変動を維持する必要に迫られたBOE(バンクオブ・イングランド)が無制限にポンド買いの為替介入に追い込まれた。完全に市場に足元を見られていたのだ。当時のBOEは外貨準備の半分近い150億ポンドの外貨準備を費やしたが、最終的に市場に敗北した。1992年9月16日(水曜)には、午前と午後の2回に渡って通貨防衛のために金利を10%から15%まで引き上げた。にも拘らず市場のポンド売りは止まらず、とうとう午後の半ばにポンド買い介入を停止した。この瞬間が歴史に名高い「中央銀行が市場に敗北した時」だ。
日銀はいつまで指値オペを続けられる?
では今回の急激な円安に関してはどうだろう。今回の円安で、この「ポンド買い介入」に代わるものが「日銀の0.25%の指値オペ」だ。今のところ日銀は涼しい顔をして金利が0.25%を上回ると指値オペを実行して金利を押さえつけている。しかしこの一見無謀なオペレーションをいつまで続けられるだろうか?
更なる急激な円安
一つは更なる急激な円安だろう。例えば一ドル150円程度に円安が進行すると、さすがに政府や経済界からの懸念の声も大きくなるかもしれない。特に7月10日の参院選に向けて円安と物価上昇が急激に進行する場合、黒田日銀総裁は長期金利を抑え込む政策の見直しを市場から強制されるかもしれない。
3%を超える急激なインフレ
もう一つは、3%を超えるような急激なインフレが短期間で進行した場合だ。一応アベノミクスのもとで日銀は2%をインフレターゲットとしてる。3%台のインフレが定着したら日銀も堂々と金利上昇を容認できるかもしれない。
本格的なキャピタル・フライト
本格的なキャピタル・フライトが発生した場合はどうだろう。年金生活者などの高齢者が、虎の子の預金を外貨に本格的に移動し始めた場合には、さすがに政府・日銀も手を打たざるを得ない状況に追い込まれるかもしれない。特に今はネットで簡単に外貨預金に変更が出来る。FXを合わせると一瞬の間に円から外貨への資本流出が発生するかもしれない。何しろ個人金融資産は2000兆円もある。この一部が動いただけで市場はパニック状態になるかもしれない。
またキャピタル・フライトが発生した場合には、国内で円預金が引出されることを意味する。もし政府日銀が1992年のBOEの様に、円買い介入で買い向かった場合には、異次元の金融緩和で積み上がったブタ積みの準備預金が急激に減少することにもなる。場合によっていは一種の信用収縮が発生して金融危機に繋がるかもしれない。
政府・日銀の本当の狙い・・・インフレによる大規模な所得移転
政府・日銀、特に黒田日銀総裁は何を考えているのだろう。一つ考えられるのは、円安とインフレを利用した高齢者から現役世代への大規模な所得移転だ。ご存じの通り日本では、2000兆円の金融資産の大半が高齢者のものだ。もし円安とインフレが急激に進行した場合には、膨大な高齢者の円建て金融資産が実質的に目減りすることになる。一方で現役世代の所得は(完全ではないにしても)ある程度インフレに連動して上がる可能性が高い。特に日本では少子高齢化で人手不足が深刻なため給料を上げざるを得ないだろう。結果として老人から若者への大規模な所得移転が発生する。これが政府の本当の狙いかもしれない。
また1000兆円を越える政府の借金に関しても、急激に物価上昇が進行した場合にはインフレに連動して税収が増えることから、日銀が長期金利を抑制し続ければ、政府債務の負担が実質的に減少することも考えられる。所謂「インフレ税」だ。
完全に市場に足元を見られた日銀
どちらにしても現在の状況は、政府・日銀が市場に完全に足元見られている状況だ。この構造的な状況が変化しない限り、円安のトレンドが反転する可能性は低いと思われる。

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