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安倍元首相の「日銀は子会社」の大きな勘違い

安倍元首相が先日開かれた大分県の会合で「日銀は政府の子会社」と発言したことが大きな波紋を広げているようだ。この発言を受けて、鈴木財務相が慌てて火消しに回る場面もあった。

高橋洋一氏が参戦

安倍元首相の日銀子会社発言が波紋を広げる中、元財務官僚で経済評論家の高橋洋一氏が参戦してきた。ネトウヨ番組で有名な大阪ABCテレビの「正義のミカタ」で、持論の「日本政府財政赤字は存在しない」論を展開した。

この高橋洋一氏の「日本政府資産超過論(財政赤字問題ない論)」に対しては、正統派の経済学者などから多くの批判が寄せられている。更に高橋氏への批判に対して、TwitterなどのSNSでは、ネトウヨアカウントから批判が殺到している。いったいドチラが正しいのだろう。

日銀は政府の子会社論の意味

2013年から始まったアベノミクスでは、ご存じの通り黒田日銀総裁の主導の元に、所謂「異次元の質的量的金融緩和」だ実施された。アベノミクスの開始以来、日銀は市場にある国債を大量に購入している。その総額は、国債発行残高の半分を超える600兆円近くになっている。

安倍元首相が言いたかったのは、日銀は政府の実質的な子会社なのだから、日銀が国債を市場から買い取れば、国の借金である「国債」と日銀が持っている資産である「国債」を相殺(要はチャラ)に出来ると言うことだろう。だから国債を無制限に発行しても問題はないという話だ。だがこの話は、完全に間違っている。それは、日銀の国債購入と見合で民間の金融機関に支払われた「超過準備預金(所謂「ブタ積み」)」の存在を(意図的にか無意識にか)無視しているからだ。

日銀当座預金という爆弾

異次元の金融緩和で国債を市場から買い取る時に日銀は「タダ」で買い取ることは出来ない。当然ながら代金を支払っている。その代金が「日銀当座預金」だ。このアベノミクスによる異次元の金融緩和で日銀が国債を買い取ったのとほぼ同額の準備預金が積みあがっている。そして日銀は、必要な準備預金を上回る額の超過準備(所謂「ブタ積み」)に対して利息を付けている。この利息付きのブタ積み準備預金が将来の爆弾になる可能性がある。

本来の日銀当座預金は無利息

本来日銀の当座預金には大きく2つの役割がある。1つは銀行間の決済用資金。毎日銀行の間で資金のやり取りがあるので、そのために日銀当座預金にお金を積んでおく。もう一つは準備預金としての役割。元々準備預金には利息が付かないので、市中銀行は普通は最低限の量のお金しか準備預金には積んでいなかった。

2008年から当座預金に付利開始

しかしリーマンショックへの対応として当座預金への付利制度である「補完当座預金制度」が2008年に1年の期限付きで導入された。そしてアベノミクスの黒田バズーカを実施するにあたっても、この超過準備に対して利息を付ける(付利)がダラダラと継続され続けている。理由は簡単だ。もし銀行が国債を日銀に売り渡した代わりに受け取る超過準備に対して利息が付かないなら、銀行は利息が付く国債を持っていた方がましだ。なので日銀に国債を売渡そうとはしないだろう。そうなると「異次元の金融緩和」を日銀が実施しようとしても、どの銀行も日銀の国債買取に応じることはない。ちなみに日銀は2016年に金融緩和を強化する際に、この超過準備に対するマイナス金利を導入しようとした、しかし市場や金融機関の経営への影響が大きすぎるとして、一部の導入にとどまっている。

参考:補完当座預金制度(日銀HP)

金利が上昇し始めると…

幸いなことにアベノミクスが始まって以来10年近くに渡って、日本の金利はゼロ近辺にとどまって来た。そのため、この日銀当座預金に対するる「付利」が問題になることはなかった。しかし、ここに来て日本でも本格的な物価上昇が始まったように思われる。企業物価指数は、直近の4月で10%の上昇!消費者物価指数もコアが日銀のターゲットの2%を超えてきている。そして為替レートも円安が進行し、一時131円台まで円が安くなった。もしこれ以上インフレと円安が進行するようになれば、日銀も25年近く続いた「ゼロ金利」を止め、短期金利を上げざるを得なくなるかもしれない。そうなれば、500兆円を越える超過準備に対しても「利息」を払わなければならなくなる。もし消費者物価指数と同じ2%で付利すると、単純計算で10兆円近い利払いが追加で必要になる。日銀の保有している国債の平均利率は0.1%近辺だろうから、巨額の逆ザヤが発生する。もし金利が上昇し始めた場合、安倍元首相が言うように、確かに日銀が保有する国債の利子は、政府から日銀に支払われた後、日銀から政府への納付金として還流するかもしれないが、逆に日銀から市中銀行への巨額の利払いが発生する。日銀は逆ザヤで赤字に陥る可能性が高い。

日銀が付利を継続した場合

金利が上昇し始めた場合で日銀が現行の超過準備預金(ブタ積み)への付利を継続した場合には何が起きるだろうか。

巨額の付利により日銀赤字転落、債務超過

日銀が金利上昇が始まった後も付利を継続した場合で、市中銀行の貸出が増えない場合には、ブタ積みの準備預金に対して日銀に巨額の利払いが発生する。日銀は赤字に転落するだろう。そして日銀には巨額の欠損金が発生し債務超過に転落することになる。当然政府への納付金もなくなる。それどころか、日銀の赤字を補填するために日銀の資本増強が必要になるかもしれない。政府は赤字国債を発行して調達することになるだろうが、国内で消化するためにはある程度の長期金利を付ける必要があることから、国債市場は暴落することになるかもしれない。

市中銀行に巨額の評価損

もし国債市場が暴落すると、多額の国債を保有している市中銀行に巨額の評価損が発生することは避けられない。メガバンクの多くは国債の保有額を減らし、保有している国債の残存期間も3年程度の短期モノ中心になっているが、貸出難から多額の長期国債を保有している地銀などの地方金融機関には巨額の評価損が発生、債務超過に転落するところが出てくるだろう。そうなると、97年の金融危機の再来だ。100兆円単位の資本注入が必要になるかもしれない。当然、資金は赤字国債で調達することになるだろう。そして更なる長期金利の上昇(国債の暴落)の引き金になるかもしれない。

日銀が付利を止めると

では単純に日銀が付利を止めた場合はどうだろう。MMT(現代貨幣理論)と呼ばれる経済理論やSNS上などで「経世済民」を唱える人たちは、この巨額の準備預金は、動かないと仮定している人が多いようだ。だがこの巨額の「ブタ積み」準備預金は、市中の銀行預金と見合になっている。問題は、金利が上昇し始めた時、または円安や物価化大幅に上昇し始めた時、この準備預金の見合になっている預金に何が起きるかだ。

理想的なパターン:貸し出しが増える

現在、日銀が設定している準備預金率は、預金の種類に応じて0.5%~2%程度だ。仮に平均が1%だと仮定すると、理論的には500兆円の100倍の貸出を市中銀行は追加で行えてることになる。ザックリ5京円だ。そう京円(けいえん、兆の次の単位の「京」だ)。因みに現在の金融機関の貸出残高は、日銀の資金循環統計によると、900兆円弱だ。生保やノンバンクの貸出に国債を加えても2500兆円弱しかない。もし仮に超過準備全額が引き出されて市中で貸し出しに回ると、今の20倍の貸出が実行されることになる。貸出急増で経済が爆発的に成長することもあり得なくもないが、資金が他の方向に向いた場合には、社会的経済的な混乱が発生するかもしれない。

普通預金もゼロ金利継続

もし日銀が付利を止めた場合、市中の銀行は今までと同様に普通預金など円預金の金利引上げを見送るかもしれない。現行は0.01%以下の低金利だが、もしインフレ物価が上昇し債券市場などの市中金利が上昇しているにも拘わらず、預金の金利引き上げを見送った場合に一般の預金者がどのような行動に出るかは「紙のみぞ知る」だ。

参考:準備預金率(日銀HP)

インフレになると預金が目減りする

ここで問題になるのが、円安がさらに進みインフレが発生すると、「預金の実質価値が目減りする」ということだ。既にこのところの円安で、海外旅行に行った時の物価高が話題になっている。ハワイやNYでラーメンと餃子を食べると何と5000円近くするという話がメディアに取り上げられている。継続的に物価が上昇すると国内でも同じことが起きる。見た目の預金が減っていないのに、物価高で買えるものが減る。問題は、この預金の実質的な目減りに国民が何時気付くかだ。

異次元の円安とキャピタルフライト

最初に想定されるのが、一般の預金者が大規模に円預金から外貨預金に資金を移動させる場合だ。今まで日本では、1971年のニクソンショック以来、50年近く円高が続いていたため、国民に外貨預金をするという習慣はない。しかしインフレ率が高い他の国では外貨預金は一般的だ。中南米諸国などでは資金が手に入ると即座にドルに換えるのが普通だ。もしインフレ率の制御に失敗し、急激に円安が進行した場合、ある時点を境に一般国民が一気に外貨預金に動く可能性がある。そうなると更に円安が加速してパニック状態になるかもしれない。キャピタルフライトの発生だ。

超資産インフレ、スーパーバブル

もう一つの可能性は、超資産インフレ(スーパーバブル)の発生だ。インフレにより預金の実質価値が目減りし始めることに一般預金者が気付いた場合、猛烈な勢いで預金が引き出されて国内の資産購入に向かう可能性もある。例えば個人金融資産2000兆円のうち10%が動いたとしても200兆円だ。因みに東証の時価総額は約700兆円しかない。日本の不動産の時価総額は諸説あるが1200兆円程度と言われている。もしここに数百兆円の資金が移動した場合には、爆発的に価格が上昇するかもしれない。また株や不動産以外だと、金などの貴金属や美術品、プレミアムのあるブランド品など色々な資産の価値が急上昇するかもしれない。資金が資産に移動するだけならまだしも、投機的な動きが過熱しバブル状況になった後に崩壊すると第二のバブル崩壊が発生するかもしれない。

超格差社会の出現

資産価格の上昇が消費に波及して国内経済が活性化すればいいが、資産インフレに乗ることが出来るのは、富裕層が中心だ。乗り遅れた一般庶民は、物価上昇の悪影響だけ受けることになるかもしれない。年金や預貯金だけしか頼るもののない高齢者の生活レベルは急激に悪化することになる。現役世代に関しては、インフレに連動してある程度は給料が上がるだろうが、インフレによる生活費の上昇をカバーできるほどではない可能性が高い。結果として日本国内では見たこともないような極端な格差が出現して、社会不安が高まるかもしてない。

ウルトラC、準備預金率の引き上げ

金利上昇、国債の暴落、超円安、そしてキャピタルフライトが発生した場合には、通常は利上げで対抗するのが定番だ。しかし金利の引上げが出来ない場合に対策はあるだろうか。一つの方法として、預金準備率を大幅に引き上げるという方法が考えられる。ただしこの方法は劇薬だ。準備預金率を引上げたとしても、預金から資産への資金移動を止めることは出来ない。そうなると預金準備率引き上げに伴い急激な信用収縮が発生するだろう。

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