勃発から2カ月が経過したロシアによるウクライナ侵略。そんな中、ウクライナ政府がTwitterに投降した動画が話題になっている。動画の中で、昭和天皇の写真をヒトラーやムッソリーニと並べてファシストとして掲載したことが問題となっているようだ。多くの日本人は、ユダヤ人の大虐殺を実行したヒトラーや、独裁政治を行ったムッソリーニと、天皇が同列に扱われることに大いに違和感を抱いただろう。実際に日本人の抗議を受けてこの画像は削除されたようだ。しかし日本人として、国際法上、特に日本の戦前の戦争行為がどう取り扱われているかは、ウクライナ戦争のみならず日本の防衛を考えるうえでも非常に重要だと思われる。そこで、戦前の日本の戦争行為が国際法上どう認識されているかを記してみたい。題して、な~んちゃって戦争法入門。
問題のtweetは以下の通り。既に修正されている。
現在の戦時国際法(戦争法)の建付け
以前、ウクライナ戦争が勃発したタイミングで以下のような記事を書いた。記事の中で紹介した通り、現在の国際戦争法、国際的な安保体制の中心は国連だ。そして、国連憲章の元になったのが、1928年に調印された「パリ不戦条約(ケロッグ・ブリアン条約)」であることを説明した。このパリ不戦条約では、それまで「合法」とされてきた国家による侵略行為を「違法」と認定して禁止した。また仮に侵略戦争が勃発した場合には、各国は「集団」で対抗することが記されていた。所謂「集団安全保障」だ。
そして今回のロシアによるウクライナ侵略は、まさに侵略行為、侵略戦争であり、ウクライナのNATO加盟問題など諸々の問題も、侵略を正当化する理由にはならないと書いた。要は「ロシアが一方的に悪い」ということだ。
「不戦条約」を最初に破ったのは日本
1928年に調印されたパリ不戦条約は、第一次世界大戦を受けて制定されたものだ。第一次世界大戦では、ヨーロッパ各国で膨大な犠牲者が出た。そして、そのまま状況を放置した場合、ヨーロッパ各国が自滅してしまうという恐怖感から、それまで野放図に行われていた戦争行為を「原則禁止」とした。そして日本も、このパリ不戦条約に調印している。我が大日本帝国も1928年に侵略戦争を放棄しているのだ。
ところがパリ不戦条約を最初に破った国は、なんと「我が大日本帝国」だった。そう1931年に勃発した「満州事変」だ。時系列に注目してみるとなんとパリ不戦条約が調印されてから僅か3年しかたっていない。
第二次世界大戦というと、その発端を作ったのは、ヒトラー率いるナチスドイツと思い込んでいる人も多いかもしれない。しかし時系列を見ていると、最初に「不戦条約」を破ったのは日本だ。1931年の時点では、まだヒトラーは政権についていない(政権獲得は1933年)。また日本の敵だったアメリカのルーズベルト大統領も就任していない(ルーズベルト大統領は1933年)。
つまり、せっかく世界の大国が平和を願って調印した「パリ不戦条約」を最初に破って第二次世界単線の端緒を作ったのは、何と我ら「大日本帝国」と言うことになる。
憲法前文と憲法9条は「不戦条約」のコピー
更に現代日本にとって重要なことは、この「パリ不戦条約」の内容と、我が日本国憲法の条文が、クリソツということだ。要は丸まるコピペだ。また論争になる事の多い「憲法9条」もパリ不戦条約を基にしていることは明白だ。日本では、この点が話題になる事は少ない。なぜなら、憲法改正を唱える保守派だけでなく、護憲を唱える東大法学部の左翼教授や共産党、立憲民主党など左翼にも都合が悪いからだ。もし日本国憲法の条文の元ネタが「パリ不戦条約」となると、集団安全保障は認められることになる。そして憲法9条が規定している「戦争の放棄」の戦争とは、「侵略戦争」となる。そしてパリ不戦条約では、当然「自衛」は認められることから、「自衛隊」は、当然「合憲」ということになる。「非武装中立」を唱えてるリベラルや左翼にとって都合が悪い。
ABCD包囲網は、現代の経済制裁
パリ不戦条約を最初に破ったのが、我が大日本帝国だという点を認識すると、その後の歴史の展開もすんなり理解できる。例えば「ABCD包囲網」。1936年に勃発した日中戦争(※これも、もちろん国際法違反)の激化を受けて、欧米各国は日本に対して対日経済制裁を実施した。鉄鋼や軍需品の輸出制限に加えて、最後にはアメリカによる「原油」の輸出禁止が行われた。まさに今ロシアに対して行われているSWIFTなど国際金融システムからのロシアの締め出しや、ロシアからの原油やガスなどの輸入制限とそっくりだ。
つまり歴史の教科書で習った「ABCD包囲網」とは、今のロシアに対する経済制裁と同様に、国際法に則った「集団安全保障」政策の一環として行われたことが良く分かるだろう。要は満州事変や日中戦争当時の日本は、正に今のロシアと同じ立場に立っていたのだ。
日本はいまでも敵国
もう一つ重要な点は、今でも日本は、ある種の「敵国扱い」されていると言うことだ。知っている人も多いと思うが、国連の基本である「国連憲章」には「敵国条項」という条文が(今でも)存在する。通常国連が安全保障上の制裁を科す場合には、「国連安全保障理事会」の決議が必要になる。そして、その国連安保理の常任理事国である5大国には「拒否権」が与えられている。今回のウクライナ戦争で国連が機能停止に陥っているのは、この常任理事国の一つであるロシアが戦争の当事者になっているためだ。
ところが、この常任理事国による承認には、一つ例外規定が定められている。それが「敵国条項」だ。第二次世界大戦中に国連加盟国の「敵国」だった国が侵略行為をした場合には、国連加盟国は安保理の承認なしに軍事力を行使できると規定されている。国連憲章には、具体的な「敵国」の名称は記されていないが、その敵国の中に「我が日本」も含まれているというのが通説だ。
誤解を恐れずに言うと、例えば日本の自衛隊が、韓国が実効支配している「竹島」や、ロシアが支配している北方領土に侵入した場合には、いかなる理由があろうとも日本の行為は「侵略行為」と見做される可能性がある。また韓国やロシアが軍事力で対抗した場合には、国際法上はロシアや韓国の行為は自衛行為として安全保障理事会の承認が無くても「合法」と見做される可能性がある。なぜなら今でも日本は国連の「敵国」だからだ。
喧嘩両成敗理論は通じない
ウクライナ戦争に関しては、日本国内で所謂「喧嘩両成敗理論」を唱える人が結構な数いる。特に有名なのは、元大阪市長の弁護士と民放の情報番組のコメンテーターあたりだろう。しかし、パリ不戦条約から国連憲章に至る歴史的経緯や、そのパリ不戦条約を一番最初に破ったのが「我が国日本」という事実を認識するなら、この「喧嘩両成敗理論」が全く通用しないのは明らかだ。
また日本が未だに国連憲章上「敵国」扱いされていることを考えると、極めて危険な考えだ。
今でも世界では日本は痛い国
多くの日本人が、日本を平和憲法を持つ世界でも一番文明化された豊かな国と認識しているだろう。だが今回のウクライナ政府が投稿した動画を見れば明らかなように、日本は今でも「最初に国際条約を破った痛い国」扱いされていることが分かる。現代に例えるなら「ロシア」や「北朝鮮」と同列だ。
今回のウクライナによる「昭和天皇同列動画」騒動は、改めて世界の日本に対する認識を我々日本人に突き付けている。

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