ここに来て大幅な円安が進んでいる。コロナ禍でのサプライチェーン混乱からのインフレに加えて、ロシアのウクライナ侵攻で資源や食料の価格が高騰していた。これを受け3月17日にはFOMCでFRBが、約2年ぶりに0.25%の利上げに踏み切ったことなどの影響が大きいようだ。一方で、翌3月18日に開かれた日銀の金融政策決定会合後の記者会見で、黒田日銀総裁が、早期の金融引き締めを否定した。このため円安に加速が付き、その週末には121円台まで円が下落している。そのような状況を受けて、日銀が当面金利を引上げない可能性を以下の投稿に書いた。今回は、もし日銀が当面、金融を引締めない場合に想定されるリスクについて考えてみた。
インフレでも日銀が緩和を金融緩和を継続した場合
日銀の黒田総裁は、現在の量的質的金融緩和(QQE)に関して、「オーバーシュート型」コミットメントを明言している。これは、消費者物価指数が2%を超えたとしても直ぐには金融緩和を中止せず、2%超の物価上昇が継続することを確認してから(1年程度?)金融緩和を中止するということだ。とすると、仮に2022年4月の消費者物価指数が2%を超えたとしても、暫くは緩和を続けると言うことだ。ちなみに、日銀の黒田総裁の任期は来年2023年3月までだ。少なくとも2022年度中は、現在の金融緩和が続くとみていいだろう。
問題は、その後だ。誰が日銀総裁になろうと金融引き締めへの転換は、大きな影響が出ることが予想される。特に長期金利が上昇し始める場合は、日本政府の財政破綻の一文字が頭をよぎる。ただ、20年程前から日本の財政破綻危機が度々話題になってきているので、またかと思っている人も多いだろう。今回もまたオオカミ少年のような話なのだろうか?それとも今度は本当にオオカミがやって来たのだろうか。そこで日銀がインフレにも拘わらず、当面現在の金融緩和を継続した場合のシナリオを考えてみた。
実質マイナス金利で預金は目減り
もし日銀が長期金利の抑圧を続けた場合には何が起こるだろう。まず考えられるのが円安だ。もし長期金利がインフレ率以下に抑制されると、実質金利がマイナスになる。そうなると通貨としての円の価値は、額面は変わらなくても実施的に「目減り」することになる。実物資産を持っていないと資産が知らないうちに目減りすることになる。
円建債券は実質目減り、社債は大幅下落も
国債などの円建て債券は実質的に価値が大幅目減りする可能性が高い。国債は日銀が買入を継続すれば、大幅な価格下落は名目上は避けられるだろう。問題は企業が発行する社債だ。社債に関しては、一部の大企業発行のものを除き日銀の買い入れ対象外だ。そうなると暴落してもおかしくない。また社債が下落するとなると、貸出の基準にになっている金利スワップレートが大幅に上昇することも考えられる。
大幅な円安
もし日銀が長期金利の抑制を継続した場合、予想される市場の反応の第一は「大幅な円安」だろう。円を持っているだけで実質価値が目減りするのだからドルなどの外貨に換えておくというのは自然な発想だ。以前の日本なら恒常的に経常黒字が発生していたため、円安の寿命は短かったが、資源価格の上昇で、足元の経常収支も赤字になっている。以前なら円安になれば自動車などの輸出が増えて、暫くすると円安は止まった。しかし最近では、iPhoneなどの電子機器も多くが輸入品になっている。円安になっても、それ程輸出は増えないかもしれない。ましてや資源などの殆どは輸入品なのだから、恒常的な円安が発生する可能性も考えておくべきだ。
株式
一般的にインフレかつ実質マイナス金利となると実物資産である株式の価値は上昇することが多い。ただし株式の反応は、銘柄によってまちまちになることが予想される。実質マイナス金利から大幅な円安が予想されるが、輸入コストの上昇に耐えられる企業と耐えられない企業、輸出によってメリットのある企業など業種や企業ごとに反応は分かれるだろう。ただ多くの日本の大企業は、海外生産、販売の比重が高くなっているので、円安によりメリットを受ける可能性が高い。日本株のインデックスは上昇する可能性が高い。
また海外株式に関しては、円安で当然ながら評価額が上昇することになる。こちらも海外経済の動向次第だが、分散されたインデックスならメリットが多いだろう。
不動産
インフレ対策と聞いて一番最初に思い浮かぶのが「不動産」かもしれない。実際、過去のインフレ局面では、不動産価格は鰻登りに上昇した。しかし今回のケースでは、過去と異なる反応も予想される。
一つ目は金利の上昇への反応の違い。長期金利の上昇が抑圧された場合には、フラット35など10年国債をベースにした長期の住宅ローンは格安の借金になる。一方で、銀行の住宅ローンなどは短プラベースの変動金利が大半だ。市中金利も低位で推移するかは、実際になってみないと分からない面がある。もし日銀の金利抑圧にも拘わらず、市中金利が上昇し、住宅ローンの変動金利が上昇した場合には、支払いが難しくなる人が続出するかもしれない。
もう一つの要因は、高齢化などの人口動態だ。交通利便性などによっては、インフレが起きても上昇しないケースも有り得る。結局は、都心などの利便性の高い物件や郊外でもコロナ移住が期待できる物件、京都や熱海、別府などの国際的な観光ブランドのある物件と、そうでない物件との間で大きな格差が生じるかもしれない。結局は物件次第か。
賃金
インフレになったら賃金、要はお給料はどうなるだろう。これも業種や職種によってまちまちの状況が予想される。例えば建設現場などの職人の給与は、少子化による人手不足の影響で、ここ数年でだいぶ上昇していた。こういう業種の給与はインフレに連動して上昇する可能性が高い。一方で介護など、元々の資金を公的な支出に頼っている業種では、インフレでも賃金の上昇が抑制されるかもしれない。元々給与の高い大企業でも、企業や業種によってまちまちになる可能性が高い。
ただ、大した資産もない公的年金頼りの高齢者や、スキルのない現役世代の生活レベルは大幅に低下する可能性が高い。公的年金への経済の依存度の高い地域は大きなダメージを受けるかもしれない。
セミリタイアラーの対応策
インフレと円安が同時発生した場合には、セミリタイアラーにとっては脅威だ。インフレによる資産の目減りは避けなければならない。そこで資産別に対応策を考えてみた。
公的年金
まず考えなければならないのは、公的年金の価値だ。公的年金の将来の支給額は、マクロ経済スライドが導入されているため、インフレには完全には追随しない。ある程度の「実質」支給額の減少は覚悟が必要。実際の減少額は予測困難だが、3割程度の実質価値の減少は覚悟する必要がある。
また、年金受給開始年齢も影響を受ける。今までのデフレ局面では、70歳からの繰下げ受給が有利とされてきた。だがインフレ率が上昇する場合には、繰上げ受給が有利になる局面が訪れるかもしれない。現行制度だと60歳に繰下げの場合、一ヵ月で0.4%受給額が減少し、65歳から受給の場合と比較して24%受給額が減少する。ただし、インフレ率がこの受給の減少分を上回ると、60歳からの繰上げ受給をした場合の方が、実質的な受取額が多くなる可能性も出てくる。ただ政府が実際のインフレ率に併せて制度改正をしてくる可能性も有るため、現状では何とも言えない。インフレと情報に敏感になっておいた方がいいだろう。
企業年金・私的年金
多くのサラリーマンが厚生年金に加えて、企業から上乗せの企業年金を受取っている(受け取る予定)のはずだ。また追加で生命保険会社などの年金商品に加入している人も多いだろう。この種の私的年金の多くは、予め給付される金額が決っている「確定給付型」だ。公的年金の様にインフレ連動にはなっていない。インフレ次第では、予定利率を簡単に割り込んで、積立額を実質で下回るかもしれない。今は退職金と企業年金で悠々自適の老後生活を計画していても、実際の受取額がインフレを下回り、老後に厳しい生活に直面することになるかもしれない。
金融資産
金融資産に関しては、株式、特に海外株式を含む分散されたインデックス投資を行っていれば、インフレの影響は回避可能だろう。場合によっては、メリットを受けられるかもしれない。
ただ心配もある。大幅なインフレと円安が発生した場合には、超過利益に対して臨時に課税してくるかも知れない。
生活費
生活費は上昇が避けられない。ただ、外貨建てを含む十分に分散された金融資産を保有していれば、影響をかなり緩和できるだろう。場合によっては、物価上昇の悪影響と海外資産の価値上昇を比較して、お釣りがくるかもしれない。
家賃
私は現在のところ賃貸物件(要は団地)に住んでいるので、インフレで家賃がどうなるかは心配の一つだ。賃貸物件の家賃に関しては、インフレである程度の上昇が予想される反面、賃金の上昇が抑制された場合(要は日本人が貧しくなった場合)には、都心など国際的な不動産価格の影響を受ける地域を除き、普通の賃貸物件の家賃は、一般庶民の所得に連動する可能性が高い。要は、それ程上昇しないかもしれないということだ。特に今の日本では家は余っている状況なので、贅沢を言わなければ、それ程心配する必要はないのかもしれない。むしろ、ある程度所得のある借主を大家が取り合う状況も予想される。
持ち家
持家はどうだろう。インフレで家賃が上昇する影響は、持家で回避できるように思える。しかし、もし本格的な円安とインフレが発生した場合には、持ち家の隠れたリスクが顕在化する可能性もある。長期的に見た場合には、持ち家でも補修や修繕が必要になる。そのコストが予想外に大きく補修や修繕が滞る事態も考えておくべきかもしれない。持家=有利というわけではないかもしれない。
税金・社会保障費
実は、一番心配なのが「税金」だ。特に超が付く円安が発生した場合には、利益の発生した金融資産に対して「懲罰的な課税」が行われる可能性も排除できない。実際にここ10年程度で日本政府は、個人の金融資産に対する管理を強化している。マイナンバーの導入に加えて、5000万円以上の海外金融資産に対しては、報告制度が導入されている。最近でも海外に移住する場合には、金融資産の含み益に対する課税制度が導入された。
まとめ
多くの金融資産を国際分散投資されたインデックスファンドで運用しているセミリタイヤラーに関しては、仮にインフレが発生したとしても、それ程困ることはなさそうだ。公的年金の目減りに関しても、少子高齢化もあり、事前に3割程度の減少は織り込んで資金計画を立てている人が多いはず。
むしろ危険なのは、老後資金を退職金と企業年金に頼っているサラリーマンや公務員の方かもしれない。マイホームに関しても多くの人が変動金利で住宅ローンを組んでいるだろう。もし市中金利が上昇してローンの支払いが急増した場合には、せっかくマイホームがあってもインフレ対策にならないかもしれない。
兎にも角にもデフレで物価が安定していて暮らしやすかった我が国日本が、近い将来インフレで激変するかもしれない。

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