岸田首相が国民民主党の前原誠二議員との間で交わした質疑が、株式投資家を中心に袋叩きにあっている。株式の配当を「成長の果実の流失」とした前原議員の質問に対して、岸田首相が、「受け止め考えること重要」と答弁したそうだ。その少し前に商船三井の保有する自動車運搬船が、大西洋上で火災を起こして、高級車などが焼失したというニュースが流れた。
岸田首相の「頓珍漢」な国会答弁
岸田首相は、企業の配当を「成長の果実の流出」とした前原議員の質問に対して、「受け止め考えることが重要」と答弁した。配当を流出と捉えること自体、株式投資をしている投資家からしたら笑止千万だが、岸田首相が就任以来唱え始めた所謂「新しい資本主義」という考え方と合わせて考えると、より深刻な事態になる。
株主還元で成長の果実流出「受け止め考えること重要」-岸田首相 – Bloomberg
商船三井の自動車運搬船で火災
その少し前に以下のようなニュースが流れた。
日本を代表する海運会社である商船三井の自動車運搬船が、大西洋上で火災を起こし、フォルクスワーゲンを中心に4000台近い自動車に被害が出るかもしれないという記事だ。運搬中の自動車の中には、1000台以上のポルシェやベントレー、ランボルギーニなどの超高級車が多数積み込まれていると伝えられたことからネット上でも一時話題になった。
多くの人が「ランボルギーニ」が燃えたことを面白がっていたようだが、この記事にはもっと重要な点がある。この事件が「経済のグローバル化」を正に象徴している面があることだ。
ドイツ製の車を日本の船が大西洋で運んでいた
今回の船の火災をみて感じたのは、ドイツやイタリアなど「欧州製」の自動車を「大西洋」を渡って「日本」日本の船会社が運搬していた。まさにグローバルサプライチェーンの象徴のような例だ。
多くの人は、商船三井や日本郵船などの日本の船会社は、「日本と海外の間」で船を運航していると思っているかもしれない。しかし実際には、多くの日本の船会社の船が、「海外->海外」での仕事をしている。一部の上級船員を除いて、船員の殆どが「外国人船員」の場合がほとんどだ。最近では、日本の船会社の船であるにも関わらず、「日本人船員が一人も乗っていない」ケースも多い。最近起きた日本の船会社の船舶事故を見ても、船長がインド人だった。
もともと船会社は、日本でも一番「グローバル化」が進んだ業種で、1970年代の円高時代から、外国人船員を大量導入していた。船の船籍も殆どがパナマやリベリアなどの海外籍だ。以前は、船自体は多くを日本で造船していたが、韓国や中国の造船業が台頭している今、船自体も価格の安い国で作るのが常識で、必ずしも日本で作っているわけではない。
日本企業は知らないうちにグローバル企業になっていた。
商船三井自動車運搬船に代表されるように、多くの日本の優良企業は、知らないうちに「海外で稼ぐグローバル優良企業」に変身していた。実際、日本の経常収支を見ると10年ぐらい前から物の輸出で稼ぐ「貿易黒字」が急減して、代わりに海外投資で稼ぐ「所得収支」が大幅に上回るようになってきている。日本は、知らず知らずのうちに「輸出大国」から「投資大国」に変わっていたのだ。
配当を制限しても意味はない。
以上のような状態を岸田首相が理解しているのか、今回の配当を巡る頓珍漢な国会答弁を見て疑問に感じた。既に多くの日本企業が、海外で稼ぐグローバル企業になっている。国内の事業は縮小しており、海外からの利益の恩恵を得られるのは、「海外展開企業で働いているサラリーマン」か「株に投資している投資家」だけだ。実際に国内でグローバル企業は、それほど給料を払っていないのだから、仮に「配当を制限」し「給料を増額」したところで、恩恵を受けるのは、例えば「商船三井」の正社員だけだ。そして配当分の利益が「内部留保」される限りは、株主価値は変わらない。
商船三井の社員は無理でも、株主にはなれる
多くの日本企業は既にグローバル企業化している。そして、その利益のお零れに預かるためには、まず商船三井のような大企業の正社員になることが必要だ。だか、多くの国民にとっては無理だろう。そうなったら残る手は、「株主になる」ことだ。正社員リーマンと株主以外には、グローバル日本企業が稼いだお金は、廻ってこない。そして株主には、少々の資金があれば「誰でもなれる」。
文句を垂れるだけではお金は廻ってこない
残念ながらというか幸いと言うべきか、多くの日本企業は、20年以上続く日本経済の低迷や度重なる円高をものともせず、逞しくも海外生産に果敢にシフトして、今やグローバル経済で確固たる地位を築いている。だが、ただ待っているだけでは、その果実は廻ってこない。以前なら国内に居て企業のに務めさえすれば、果実もほぼ自動的に回ってきていたかもしれないが、今は「自分から動かないと果実が廻ってこない」経済構造になっている。そして、この構造は当分は変わりそうもない。結局リスクを自分でとって動いたものだけが、このグローバル経済の果実のお零れに預かることが出来るのだ。文句を垂れていても何も始まらない。

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