2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵略。日本でも各界の識者やインフルエンサーがSNSなどで情報や意見を盛んに発信している。そんな意見を見ていて気になったのが、多くの識者やインフルエンサーと呼ばれる人たちが、ロシアによるウクライナ侵略の責任を「NATO加盟をしようとしたウクライナが悪い」と主張している点だ。これは基本的な国際法の知識が欠如していることが原因の一つと考えられる。そこで今回は、ロシアのウクライナ侵略を語る上で恥をかかないための、超初級国際法入門。
ロシア擁護はレイプの被害者を非難するようなもの
このSNS上のインフルエンサーの意見で多く見られるものが、「NATOに加盟しようとしたウクライナが悪い」や「ウクライナの加盟を明確に否定しなかったNATOが悪い」という意見だ。このような考えを持っている人も意外に多いようだが、この見方は世界では全く受け入れられない。このような意見は、あたかもミニスカートを穿いていて女性がレイプされた時に「レイプされたのはミニスカートを穿いていて女性の被害者にも責任がある」と主張するようなものだ。
基本はパリ不戦条約
今の国際関係、特に戦争に関する国家関係を規定している基本は1928年に調印された「パリ不戦条約(ケロッグ・ブリアン条約)」だ。この条約では、国家による侵略戦争を「違法行為」として禁止している。簡単に言うと「先に手を出した方が全責任を負う」ということだ。
それより前は戦争は合法
では、それ以前はどうだったのかと言うと、21世紀に生きている人間には、信じられないかもしれないが、国家による武力の行使は「合法」とされていた。仮に他国を武力で攻撃しても、それは「無問題」ということだった。むしろ国家間のヤヤコシイ問題は、最後は「戦争で決着をつける」のが普通だった。この昔の国際法に関する有名は条約が「ウエストファリア条約」。また有名な「ジュネーブ条約」なども、戦争行為は「合法」だとの前提で、そのルールを定めている。
近代日本の侵略戦争に関しても、日露戦争までは国際社会で全く非難されなかったのもこれが理由。ところが、1931年の満州事変以降の日本の軍事侵略は、全て「国際法違反」となり、欧米から激しい非難に晒された。日本が戦前に破滅への道を進んだのも、この国際法の根本的な変更を当日の軍部や政府高官が理解していなかったからだ。
国連憲章もパリ不戦条約が元
このパリ不戦条約が元になって最終的に制定されたのが「国連憲章」だ。直接的には、アメリカのルーズベルト大統領とチャーチル英首相が出した「大西洋憲章」が元になっているが、その更に元ネタは、このパリ不戦条約だ。
国連憲章テキスト | 国連広報センター (unic.or.jp)
憲法9条の元もパリ不戦条約
また今の日本の憲法の「日本国憲法第9条」も、この「パリ不戦条約」が元になっている。日本の学校では殆ど教えられていないが、パリ不戦条約と日本国憲法の前文や9条を比較すると、ほぼ同じ内容であることに気づくはずだ。
集団的安全保障が基本
パリ不戦条約で侵略戦争が「違法」とされたとして、実際に侵略を受けた国はどのようにして自国を防衛すればいいのだろうかと疑問を持った人も多いかもしれない。侵略戦争に対抗する手段としては、「集団的自衛権」で対抗することが予定されている。この集団的自衛権の中には、各国の経済制裁も含まれていて、まず各国が侵略国に対して経済制裁を行い侵略行為の停止を求める。それでも侵略戦争を止めない場合には、各国が協力して侵略国を武力で罰するという建付けになっている。今回ロシアに対して取られたSWIFTからの排除などの厳しい経済制裁もこの手順に沿ったものだ。また国連と言う組織は、正にこの集団的自衛権を行使するために作られた機関だ。
憲法9条擁護と国連中心主義は、頓珍漢
この点で注目されるのが、日本の左派を中心とする「憲法9条擁護派」だ。憲法9条擁護派の多くは、国連中心主義と憲法9条の堅持を主張し「集団的自衛権」には反対している。しかし国連の基本は「集団的自衛権」であり、もし日本が国際的な平和に貢献しようとするなら、積極的に軍事力を国連に提供して「集団安保」に参加しなければならなくなる。日本の左翼の主張が如何に頓珍漢なものか、この点だけでも良く分かる。
自衛戦争は否定せず
もちろん「パリ不戦条約」も完全ではなく、この条約でも「自衛のための戦争」は認めらている。ところが、この条約には、どのような場合が「侵略」で、どのようや場合が「自衛」かが記されていない。これは、あまりに定義を狭くとると、その隙をついて行動する国家が現れることや、逆にあまりにも広く「侵略」の定義を定めると、当時の主要国が調印を躊躇うことを想定して、意図的に「曖昧」に定義したとも言われている。当然ながら侵略国も自分の行為を「自衛」のためだと主張する余地がある。戦前日本が、満州事変など中国大陸への侵略戦争を「自存自衛」のためとして正当化しようとしたも、この自衛権の行使を意識してのことだろう。今回のロシアのウクライナ侵略でも、ロシアは自国の「防衛」や「安全保障」のためと主張しており、「自衛権の行使」を意味していると思われる。
完全ではないが、一応機能している
ということで、パリ不戦条約を源泉として、今の国連憲章に連なる一連の「侵略を違法とする」戦時国際法は、不完全ながらも各国が尊重するのが国際関係の建前になっている。例えば2003年の米国によるイラク攻撃でも、米国は国連の安保理で開戦直前まで「イラクが大量破壊兵器を保有している」と執拗に主張してイラク攻撃に対して「国連のお墨付き」を得ようと行動していた。今から思えば明らかに米国のイラク攻撃は「侵略戦争」なのだが、一応国連にもお伺いを立てた上で「やむを得ず攻撃した」という体裁を取っているのが分かるだろう。
ロシアの行為は「完全な違法行為」
ということで、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、完全な「侵略戦争」で、現行の国際法に照らして「完全な違法行為」ということになるだろう。いくらロシアがウクライナのNATO加盟を非難していも、「まだ加盟もしていない国をいきなり攻撃する」ことは、どうロシアに贔屓目に考えても「自衛戦争」とみなすことは出来ない。ロシアに対して何か「具体的な脅威」があったのなら別だが(例えばウクライナにNATOが「核」を配備するとか)、ロシアの主張が国際的に認められる余地はない。
ウクライナやNATOを非難するのは「無知」を晒す行為
今もSNS上には、有名なインフルエンサーや識者、コメンテーターと呼ばれる人たちが、「戦争の原因はウクライナによるNATO加盟」にあるとか、「NATOがロシアにウクライナが加盟できないという保障」をしなかったなどと「ロシア擁護」の主張をするのが散見される。これらの主張は、現行の国際法に照らして「全くの間違い」であることは言をまたない。もちろん国際法や国連は完全ではなく、現実には「力」がものを言うのが現実だが、それでも各国が国際法を順守しようと「努力」しているのも事実である。
コロナに続いてウクライナ戦争がリトマス試験紙に
新型コロナウィルスのパンデミックでも、今まで信頼を集めていた識者やインフルエンサーがいきなり「陰謀論者」になったり、「コロナは唯の風邪」と主張し始めたりして、面食らった人も多いだろう。今回の「ロシアによるウクライナ侵略」についても、「愚か者」や「無知」を見分けるリトマス試験紙になる可能性が高い。そして不用意に発言した内容は、インターネット上に半ば永遠に残る。特にSNSでの情報発信には、くれぐれも注意したい。
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